- 「自己奉仕バイアス」とは、うまくいったこと(成功)は「自分の能力や努力のおかげだ!」と考え、逆によくなかったこと(失敗)は「運が悪かった…」「周りの環境や他人のせいだ…」と考えてしまう、人間の心にありがちな「クセ」(認知バイアス)のことです。
- なぜこんな風に考えてしまうかというと、主に自分のプライド(自尊心)を守りたい、他人から良く見られたい、といった心理が働くためです。成功を自分に結びつければ気分が良くなり、失敗を外部のせいにすれば落ち込まずに済みますよね。
- この心のクセは、精神的な安定を保ったり、やる気を維持したりする良い面もあります。しかし、あまりに強すぎると、自分の間違いから学べず成長できなかったり、他人から「責任転嫁する人だ」と信頼を失ったりする悪い面も出てきます。
- 大切なのは、このような心のクセが誰にでもあることを知り、成功も失敗も、できるだけ客観的に「自分の要因」と「外部の要因」の両方から振り返ってみること。そうすることで、よりバランスの取れた自己評価と、建設的な人間関係に繋がります。
テストで良い点を取ったら「やっぱり自分は頭がいい!」と誇らしい気持ちになり、でも、もし悪い点を取ってしまったら「今回は問題が異常に難しかったんだよ……」と、つい問題のせいにしてしまったり。
スポーツの試合でチームが勝ったら「俺たちの実力だ!練習の成果が出た!」と喜び、でも負けてしまったら「審判のジャッジがおかしかった!」「相手がラッキーだっただけだ!」と、不満を漏らしてしまったり。
こんな風に、うまくいったことは自分の手柄だと感じ、逆によくなかったことは自分以外の何かのせいにしてしまう……。そんな経験、誰にでも一度や二度は(あるいは、もっとたくさん?)あるのではないでしょうか?
実はこれ、決してあなただけが特別に「自分に甘い」わけではなく、人間の心に、ある程度は誰にでも備わっている「自己奉仕バイアス」という、面白い(そして時には少し厄介な)心理的な「クセ」が働いている結果なのかもしれません。
今回は、この私たちの心の中に潜む「自己奉仕バイアス」とは一体何なのか、なぜそんな風に考えてしまうのか、そして、この心のクセとどうすれば上手に付き合っていけるのか、その秘密を探ってみましょう。
「自己奉仕バイアス」って何? 私たちの心の「自分びいき」なクセ
「自己奉仕バイアス」とは、心理学で使われる言葉で、その名の通り、
自分自身に奉仕する(=自分にとって都合が良い)ように、物事の原因を解釈してしまう、心の偏った傾向
のことを指します。
もっと具体的に言うと、私たちは何か出来事が起こった時、その原因がどこにあるのかを無意識のうちに判断しようとしますが(これを心理学では「原因帰属」と言います)、その判断の仕方に、次のような特徴的な「偏り(バイアス)」が見られることがあるのです。
原因は「自分のおかげ!」(内的要因)
何か良い結果が出たり、うまくいったりした場合には、その原因を「自分の能力が高かったからだ」「自分が一生懸命努力したからだ」「自分の判断が正しかったからだ」というように、自分自身の内側にある要因(内的要因)に求める傾向があります。
原因は「自分以外のせい!」(外的要因)
逆に、悪い結果になったり、うまくいかなかったりした場合には、その原因を「運が悪かっただけだ」「周りの環境や状況が悪かったからだ」「他の人の協力が得られなかったからだ」「そもそも課題が難しすぎたんだ」というように、自分以外の外側にある要因(外的要因)に求める傾向があります。
つまり、「成功は自分の手柄、失敗は他人のせい(あるいは不運のせい)」と、自分にとって心地よく、自分を守るように原因を判断してしまう、人間の認知(物事の捉え方)における、ごく自然な「自分びいきのクセ」のようなものなのです。
なぜ私たちは「自己奉仕」しちゃうの? その心理的な理由
では、どうして私たちの心は、こんなにも「自分に甘い」というか、「自分にとって都合の良い」解釈をしてしまうのでしょうか? それには、いくつかの大切な心理的な理由があると考えられています。
自分を好きでいたい!自尊心(セルフ・エスティーム)を守り、高めるため
誰だって、自分のことを「価値のない人間だ」「ダメなやつだ」などとは思いたくないですよね。私たちは皆、自分自身に対して肯定的な感情を持ち、自分には価値があると感じたい(自尊心を高く保ちたい)という、基本的な心の欲求を持っています。
成功を「自分の能力や努力のおかげだ」と考えることは、この自尊心を高め、自信を与え、気分を良くしてくれます。逆に、失敗を全て「自分のせいだ」と受け止めてしまうと、自尊心は深く傷つき、落ち込み、時には無力感に苛(さいな)まれてしまうかもしれません。
自己奉仕バイアスは、この大切な自尊心という「心の盾」を守り、高めるための、一種の無意識的な心の防衛メカニズムとして働いている、と考えることができます。
周りから良く見られたい!自己呈示(セルフ・プレゼンテーション)のため
私たちは、他人から「できる人だ」「賢い人だ」「素晴らしい人だ」と良く見られたい、肯定的に評価されたい、という社会的な欲求も持っています(これを「自己呈示欲求」と言います)。
成功を自分の手柄としてアピールし、失敗の原因を自分以外のものに求めることで、他人からの評価を維持したり、高めたりしようとする心理が、自己奉仕バイアスとして現れることがあります。「自分は悪くない」と周りに思わせたい、というわけですね。
情報処理の仕方のクセ?認知的な要因
物事の原因を考えるとき、私たちの脳は、必ずしも全ての情報を公平かつ客観的に処理しているわけではありません。いくつかの認知的な処理の「クセ」が、自己奉仕バイアスを生み出している可能性も指摘されています。 例えば、
成功した時は、そこに至るまでの自分の努力や計画、意図といった「内的要因」を、私たちは比較的よく覚えていますし、思い出しやすい傾向があります。
一方で、失敗した時は、予期していなかった邪魔が入った、タイミングが悪かった、誰かが協力してくれなかった、といった「外的要因」の方が、より強く印象に残りやすいのかもしれません。
また、多くの人は物事に取り組む際に、「きっとうまくいくはずだ」というある程度の期待を持っています。そのため、成功はその期待通りなので自分の力だと感じやすく、失敗は期待外れなので外部の何かのせいにしやすい、ということも考えられます。
自分は状況をコントロールできる!コントロール感の維持
失敗した時に、その原因を自分以外の、コントロールが難しい外部要因(例えば、「今回は運が悪かっただけだ」「相手が悪すぎた」など)に求めることで、「自分の能力そのものに問題があるわけではない。今回はたまたまダメだっただけで、次はきっとうまくやれるはずだ」という、状況を自分自身でコントロールできるという感覚(コントロール感、自己効力感とも関連します)を維持しようとする働きもある、と考えられています。この感覚は、私たちが困難な状況に再び立ち向かうための、大切な原動力にもなります。
あるある? 日常の中の自己奉仕バイアス
この自己奉仕バイアス、実は私たちの日常生活の、本当にありとあらゆる場面で、顔を覗かせています。いくつか、身近な例を挙げてみましょう。
- 試合に勝った時
「やっぱり練習の成果が出た!」
「今日の俺はキレッキレだった!」
→自分のチームや自分の内的要因 - 試合に負けた時
「審判の判定がおかしかったんだよ…」
「相手が卑怯な手を使ってきた!」
「今日はグラウンドの状態が悪すぎた」
→ 外的要因
- 良い点を取った時
「やっぱり僕は(私は)天才だ!」
「ちゃんと勉強したから当然だよね」
→ 内的要因 - 悪い点を取った時
「今回は問題が異常に難しかったんだよ」
「先生の教え方が悪いんじゃないか?」
「試験の前の日に限って、隣の家がうるさくて全然眠れなかったんだ…」
→ 外的要因
- プロジェクトが成功した時
「私のリーダーシップが素晴らしかったからだ」
「私が立てた戦略が見事に的中した」
→ 内的要因 - プロジェクトが失敗した時
「部下の能力が足りなかったんだ」
「競合他社の動きが予想外だった」
「そもそも会社が十分な予算をくれなかったのが悪い」
→ 外的要因
- 自分がヒヤリとするような運転をしてしまった時
「相手が急に飛び出してきたから、危なかったじゃないか!」
→ 外的要因 - 相手がヒヤリとするような運転をしてきた時
「あの運転手、全然周りを見てないな! 注意力が足りないんだ!」
→ 相手の内的要因=自分にとっては外的要因
- 誰かとすぐに仲良くなれた時
「自分のコミュニケーション能力が高いからだ」
「僕(私)って魅力的だからな」
→ 内的要因 - 誰かと喧嘩してしまった時
「相手が頑固で、全く話が通じないからだ!」
「向こうが先に失礼なことを言ってきたんだ」
→ 相手の内的要因=自分にとっては外的要因
……などなど、皆さんも「あ、これって自分にも覚えがあるかも……」と感じる場面が、一つや二つはあったのではないでしょうか?
良い面もあるけど… 自己奉仕バイアスの「光」と「影」
さて、この自己奉仕バイアスですが、一見すると「自分に甘い、ちょっとズルい心のクセ」のように思えるかもしれません。しかし、このバイアスは、必ずしも悪いことばかりではありません。実は、私たちが精神的に健康に生きていく上で、ある程度は役立っている側面もあるのです。
自己奉仕バイアスの光:良い面・メリット
心の安定剤になる(自尊心を守る)
失敗や不運な出来事に直面した時、その原因を全て自分のせいにしてしまうと、私たちはひどく落ち込み、自信を失い、時にはうつ状態になってしまうこともあります。自己奉仕バイアスが働き、失敗の原因をある程度「外部のせい」にすることで、過度に自分を責めずに済み、精神的なダメージを和らげ、大切な自尊心を守ることができます。これは、ストレスの多い現代社会を生き抜く上で、ある程度必要な「心のクッション」のような役割を果たしているとも言えます。
やる気を保つ(モチベーション維持)
成功体験を「自分の力だ!」と強く認識することで、自信がつき、次の目標に向かって頑張ろうという意欲(モチベーション)を維持しやすくなります。「やればできるんだ」という感覚は、新しい挑戦への原動力になります。
失敗からの立ち直りを助ける
大きな失敗から立ち直る際に、「今回は運が悪かっただけだ、次はきっと大丈夫」「環境が整えば、自分ならできるはずだ」と考えることで、過度な自己否定に陥らず、前向きな気持ちを取り戻しやすくなります。
自己奉仕バイアスの影:悪い面・デメリット
しかし、この自己奉仕バイアスがあまりにも強すぎたり、どんな時でも常に働いていたりすると、様々な問題を引き起こす可能性も出てきます。
成長の大きな妨げになる
失敗の原因をいつも自分以外のものに求めていると、自分自身の行動や考え方の中にあったかもしれない問題点や、改善すべき点に気づくことができません。そのため、同じような失敗を何度も繰り返してしまったり、本当の意味でのスキルアップや人間的な成長が妨げられたりする危険性があります。「自分は悪くない」と思い続けることで、学ぶ機会を失ってしまうのです。
周りの人との関係が悪くなる
成功はいつも自分の手柄、失敗はいつも他人のせい、という態度が目立つ人は、周りの人からは「自己中心的だ」「言い訳ばかりする人だ」「責任転嫁する人だ」と見なされ、信頼を失い、人間関係が悪化してしまう可能性があります。特に、チームで何かを成し遂げようとする場合には、自己奉仕バイアスが強い人は、チームワークを著しく損なう原因となりがちです。
現実を正しく見られなくなる
常に自分を実際よりも高く評価し(過大評価)、客観的な状況判断ができなくなってしまうと、現実離れした無謀な目標を立ててしまったり、目の前にあるリスクを正しく評価できなかったりして、結果的に大きな失敗や損失を招いてしまうことにもなりかねません。
組織全体の問題にも
個人だけでなく、会社やグループといった組織全体が自己奉仕バイアスに陥ってしまうと(例えば、「我々の製品が売れないのは、市場が悪いからだ/競合他社が不正をしているからだ」とばかり考え、自社の製品や戦略の問題点を見ようとしない、など)、問題の根本的な原因究明や、必要な改革が進まず、組織全体の停滞や衰退につながる危険性があります。
文化によっても違う? 自己奉失バイアスの現れ方
興味深いことに、この自己奉仕バイアスがどの程度強く現れるかについては、その人が育った文化的な背景によっても違いがあるのではないか、という研究も行われています。
一般的に、アメリカや西ヨーロッパの多くの国々のような、個人の独立性、個人の能力、そして個人の達成を重視する「個人主義的な文化圏」では、自分自身をポジティブに評価し、成功を自分の力によるものだとアピールすることが奨励される傾向があるため、自己奉仕バイアスがより強く現れやすいのではないか、と言われています。
一方で、日本や中国、韓国といった東アジアの一部の地域や、その他多くの非西洋文化圏に見られるような、集団全体の調和や、他者との相互依存関係、そして謙虚さや自己抑制を美徳とする「集団主義的な文化圏」では、自己奉仕バイアスが比較的弱く、むしろ成功を「周りの人々のおかげです」「運が良かったです」と捉えたり、失敗を「自分の努力が足りませんでした」「私の責任です」と謙遜したり、自己批判したりする傾向が、より強く見られることがある、という研究報告もあります。(ただし、これもあくまで一般的な傾向であり、文化の違いを一面的に捉えることはできませんし、同じ文化の中でも個人差は非常に大きいです。)
自己奉仕バイアスと上手に付き合うために:大切なのは「自覚」と「バランス」
では、この誰の心にも潜んでいる「自己奉仕バイアス」と、私たちはどのように付き合っていけば良いのでしょうか? このバイアスを完全になくしてしまうことは、おそらく難しいでしょうし、前述のように、ある程度は心の健康を保つために必要な側面もあります。大切なのは、その存在を理解し、うまくコントロールし、バランスを取ることです。
【第一歩】「自分にも、そんな心のクセがあるかもしれない」と自覚する
まず最も大切なのは、「自分は常に公平で客観的だ」と思い込むのではなく、「自分も無意識のうちに、自己奉失バイアスという『自分びいき』のフィルターを通して物事を見ているかもしれない」と、その可能性を自覚することです。この「気づき」こそが、最初の、そして最も重要なステップです。
【振り返りの習慣】成功も失敗も、多角的に分析する
何か大きな出来事があった後、それが成功であれ失敗であれ、すぐに「自分の手柄だ!」「あいつのせいだ!」と感情的に決めつけてしまうのではなく、少し時間を置いて、うまくいった要因、あるいはうまくいかなかった要因の両方を、自分自身の行動や判断(内的要因)と、周りの状況や他者の行動(外的要因)の両面から、できるだけ客観的に、そして具体的に振り返ってみる習慣をつけましょう。
「確かに自分の努力もあったけれど、あの時の周りの人の助けや、タイミングの良さも大きかったな」「今回は自分の準備不足や判断ミスもあったけれど、同時に、予期せぬトラブルや、相手の協力が得られなかったことも影響したな」というように、多角的な視点で物事を捉えることが大切です。
【他者の視点】信頼できる人の意見に耳を傾ける
自分一人で考えていると、どうしても自分の見たいように物事を見てしまいがちです。そんな時は、あなたが信頼できる友人や、同僚、上司、家族などに、その出来事について話してみて、客観的なフィードバック(意見や評価)を求めてみるのも、非常に良い方法です。自分では気づかなかった視点や、自分の行動の改善点などを指摘してもらえるかもしれません。
【長期的な成長のために】失敗から学ぶ謙虚さを持つ
短期的な気分の落ち込みを避けるために、失敗の原因を全て外部のせいにしてしまうのは、その場しのぎとしては楽かもしれません。しかし、それでは同じ過ちを繰り返してしまう可能性があります。長期的な視点で見れば、失敗は、自分自身の弱点や改善点を発見し、そこから学び、次に活かすための、貴重な「成長の機会」です。失敗を恐れず、そこから謙虚に学ぶ姿勢を持つことが、本当の意味での強さにつながります。
まとめ:「手柄は自分、ミスは人のせい?」心のクセと、賢く向き合おう
うまくいったことは「自分の才能と努力の賜物!」と胸を張り、でも、もし失敗してしまったら「今回は運が悪かったし、周りの環境も最悪だったんだ……」と、つい考えてしまう…。そんな、私たちの心の中に潜む、ちょっぴり「自分びいき」なクセ、それが「自己奉仕バイアス」です。
これは、私たちのプライドを守り、前向きな気持ちを保つために、ある程度は必要な「心の防衛本能」のようなものかもしれません。しかし、このバイアスがあまりにも強くなりすぎると、自分の間違いから学ぶチャンスを失ってしまったり、周りの人たちとの信頼関係を損ねてしまったりする原因にもなりかねません。
大切なのは、「ああ、自分にもそんな心のクセがあるんだな」と、まずその存在に気づくこと。そして、成功した時も、失敗した時も、少しだけ立ち止まって、「本当にそうだったかな?」「他に理由はなかったかな?」と、自分自身と正直に向き合ってみることなのかもしれませんね。
そうすることで、私たちは、自分を不必要に卑下することなく、かといって過剰にうぬぼれることもなく、現実をしっかりと見つめ、人として、そして社会の一員として、一歩ずつ着実に成長していくことができるのではないでしょうか。
自己奉仕バイアスは、私たちの心に潜む、ちょっぴりユーモラスで、でも実はとても奥深い「人間らしさ」の、一つの面白い現れなのかもしれません。
※本記事では英語版も参考にしました



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