- 「返報性の原理(へんぽうせいのげんり)」とは、人から何かしてもらうと「お返しをしなきゃ!」と感じてしまう心理のことです。社会心理学の重要な法則の一つ。
- スーパーの試食や無料サンプルをもらうと、なんだか商品を買わないと申し訳ない気がする…あれも返報性の原理が働いています。
- 親切やプレゼントだけでなく、相手が譲歩してくれたり、個人的な情報を打ち明けてくれたりした場合にも、「こちらも何かお返しを…」と感じやすいです。
- この心理はとても強力で、人間関係を円滑にする一方、マーケティングや交渉術などに応用されたり、時には悪用されたりすることもあるので、知っておくと役立ちます。
スーパーで試食を勧められて、ついその商品を買ってしまった…。
友達から思いがけずプレゼントをもらったら、「何かお返ししなきゃ!」とソワソワしてしまった…。
そんな経験はありませんか? もしかすると、あなたの心の中では「返報性の原理」という、強力な心理法則が働いているのかもしれません。
今回は、私たちの行動に大きな影響を与えているこの「返報性の原理」について、その仕組みや具体例、そして上手に付き合っていくためのヒントをご紹介します。
「お返ししなきゃ」の正体:返報性の原理とは?
「返報性の原理」とは、簡単に言うと、人から何か良いこと(親切、好意、贈り物、情報、譲歩など)をしてもらったら、「自分も何かお返しをしなくてはならない」と感じる心理的な傾向のことです。日本語で言う「義理」や「恩」の感覚、あるいは「ギブ・アンド・テイク」という言葉の根底にある心理と言えるでしょう。
この原理は、社会心理学者のロバート・チャルディーニ博士が、そのベストセラー『影響力の武器』の中で、人が他者に影響される際の強力な法則の一つとして紹介したことで、広く知られるようになりました。
では、なぜ私たちは「お返ししなきゃ」と感じてしまうのでしょうか?
- 社会を成り立たせるルールだから
人類が互いに協力し合い、社会を築いていく上で、「受けた恩は返す」というルールは非常に重要でした。このルールがあるからこそ、人々は安心して他者に親切にしたり、助け合ったりできるのです。 - 「恩知らず」と思われたくない
この社会的なルールから外れて「もらいっぱなし」でいると、「恩知らず」「不義理な人」「自分勝手な人」といったネガティブなレッテルを貼られ、社会的な信用を失う可能性があります。私たちは、そうした評価を無意識に避けようとします。 - 義務感や罪悪感
相手のことが好きかどうか、もらったものが本当に欲しかったかどうかに関わらず、「何かしてもらった」という事実だけで、「お返しをする義務がある」「しないと申し訳ない」という気持ち(一種の心理的な負債感)を感じやすいのです。
日常にあふれる返報性の原理:具体例を見てみよう
返報性の原理は、私たちの身の回りの至る所に顔を出します。
- スーパーの試食・デパ地下の試供品
無料で提供されると、「味見させてもらったし…」という気持ちが働き、購入へのハードルが下がります。 - バレンタインデーとホワイトデー
チョコレートをもらったら、お返しをするのが文化として定着していますね。 - プレゼント交換
友人や家族から誕生日プレゼントをもらったら、相手の誕生日にもプレゼントを贈るのが自然な流れです。 - 親切のお返し
電車で席を譲ってもらったり、落とし物を拾ってもらったりしたら、「ありがとう」と言うだけでなく、自分も誰かに親切にしたくなることがあります。 - SNSでの「いいね!」返し
誰かが自分の投稿に「いいね!」をくれると、その人の投稿にも「いいね!」を返したくなる心理。 - 自己開示のお返し
相手が自分の悩みやプライベートな情報を打ち明けてくれると、こちらも自分のことを話さないと不公平な気がして、つい話してしまうことがあります(自己開示の返報性)。 - ケンカの後の仲直り
相手が「ごめん」と謝ってきたら、こちらも「ごめん」と謝らないと、なんとなく場が収まらないと感じることも(譲歩の返報性の一種かも?)。 - ネガティブな側面も…
実は、「やられたらやり返す」という心理も、返報性の一種(敵意の返報性)と考えることができます。「目には目を、歯には歯を」の発想ですね。
ビジネスや交渉で使われるテクニック
この強力な心理原理を、ビジネスや交渉の場面で意図的に活用するテクニックも存在します。
マーケティング・セールス戦略
- 無料オファー
無料サンプル、無料トライアル、無料セミナーなどを提供することで、顧客に「借り」を感じさせ、有料商品やサービスの購入に繋げやすくします。 - ささやかなプレゼント
来店記念のノベルティグッズや、購入時のおまけなどは、顧客の好意を引き出し(好意の返報性)、リピート購入や口コミを促す効果が期待できます。
ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック(譲歩的依頼法)
これは交渉術などでよく使われるテクニックです。
- 最初に、相手がまず間違いなく断るであろう「大きな要求」をします。
(例:「このプロジェクトのために、今月100時間の残業をお願いできませんか?」) - 相手に断られた後で、それよりもずっとハードルの低い、本当に通したい「本命の要求」を提示します。
(例:「そうですか…では、今週だけでも10時間お願いできませんか?」) - 相手は、「さっきは断ってしまったし、要求も下げて譲歩してくれたのだから、今度の要求は受け入れないと申し訳ない」と感じ、譲歩の返報性が働き、本命の要求を受け入れやすくなるのです。
交渉を有利に進める
会議の場で相手に先に発言権を譲ったり、相手にとって有益な情報を少し提供したりすることで、相手からの譲歩や協力的な態度を引き出しやすくなります。
知っておきたい注意点:悪用されることも
返報性の原理は人間関係をスムーズにする潤滑油のような役割を果たしますが、その影響力の強さゆえに、悪用しようとする人も残念ながら存在します。
- 好意を装った押し売り
親切そうに近づいてきて、無料プレゼントや小さな親切を提供し、「お返しに」といわんばかりに高額な商品や不要なサービスを契約させようとするケース。 - 不当な見返りの要求
ちょっとした手伝いや贈り物を盾に、「あの時○○してあげたんだから、今度はこれをやってよ」と、明らかに釣り合わない大きな見返りを要求してくるケース。
こうした悪意ある働きかけから身を守るためには、まず「返報性の原理」という心理が働くことを知っておくことが重要です。そして、「この親切は、純粋な気持ちからのものだろうか? それとも、何か見返りを期待されているのだろうか?」と、一歩引いて冷静に状況を見極める視点を持つことが大切です。
もし相手の「施し」に下心を感じたり、見返りを要求されて不快に思ったりした場合は、罪悪感を感じる必要はありません。不本意な「お返し」をする義務はないのですから、毅然とした態度で断る勇気を持ちましょう。
まとめ:うまく付き合おう、返報性の心理
「返報性の原理」は、私たちが社会的な動物として進化する過程で身につけてきた、非常に人間らしい基本的な心の働きです。お互いに助け合い、協力し合う社会を築く上で、なくてはならないものでもあります。
しかし、その力が無意識のうちに私たちを動かしていることを理解しておかないと、知らず知らずのうちに誰かの意図に流されたり、後悔するような決断をしてしまったりする可能性も否定できません。
「あ、今、返報性の原理が働いているかも?」
そう気づけるだけで、私たちはより冷静に、そして主体的に物事を判断できるようになります。この強力な心理と、上手に付き合っていきたいものですね。



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