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【4月9日】人類最古の録音?音が「見える」装置、フォノトグラフの記念日

今日は何の日?
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この記事のざっくりまとめ
  • フォノトグラフ(Phonautograph)は、1857年にフランスの発明家エドゥアール=レオン・スコット・ド・マルタンヴィルによって発明された、世界で初めて音を記録した装置です。エジソンの蓄音機より20年も前のことでした。
  • この装置の目的は、音の波形を、回転する円筒に塗った煤(すす)の上に針で引っ掻いて「視覚的に記録」することであり、記録した音を再生する機能はありませんでした
  • 1860年の今日、4月9日には、このフォノトグラフを使って、フランスの有名な民謡『月の光に(Au clair de la lune)』を歌う声が記録されました
  • 長い間「聞くことのできない音の記録」でしたが、2008年にアメリカの研究者たちが現代のデジタル技術を駆使して、煤の上の線を音声として再生することに成功。これにより、この1860年4月9日の記録が、現存する人類最古の「人の声」の録音(再生可能なものとして)であることが判明しました。

今から160年以上も昔、1860年の今日、4月9日。この日、歴史上初めて、人間の歌声が意図的に記録媒体に残されました。それを可能にしたのは、「フォノトグラフ(Phonautograph)」と呼ばれる画期的な装置でした。

トーマス・エジソンが蓄音機を発明するよりずっと前に存在したこの装置は、音を「聞く」ためではなく、「見る」ために作られたものでした。一体どういうことなのでしょうか? 今回は、音響記録技術のまさに原点とも言えるフォノトグラフと、現代によみがえった「人類最古の声」の物語をご紹介します。

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音を「見る」ための発明:フォノトグラフとは?

フォノトグラフを発明したのは、エドゥアール=レオン・スコット・ド・マルタンヴィル(Édouard-Léon Scott de Martinville)というフランス人です。彼はパリで印刷業や書籍販売業を営む傍ら、発明にも情熱を注いでいました。そして1857年、彼は「フォノトグラフ」と名付けた装置の特許を取得します。これは、あのトーマス・エジソンが蓄音機(フォノグラフ)を発明する(1877年)よりも、実に20年も早い出来事でした。

スコットがフォノトグラフで目指したのは、音、特に人間の話し声や歌声が空気中に描く「波形」を、紙の上に視覚的なパターンとして記録することでした。彼は、音の波形を「自然自身が書き記す速記術」のように捉え、その”文字”を固定して研究したいと考えていたのです。

ここで非常に重要な点は、スコットのフォノトグラフは音を再生することを目的としていなかった、ということです。あくまでも、音の波形を「見る」ための記録装置であり、これが後に登場し、録音・再生を可能にしたエジソンの蓄音機との決定的な違いになります。

では、フォノトグラフはどのような仕組みで音を記録したのでしょうか? その構造は比較的シンプルです。

  1. 大きなラッパ状のホーン(集音器)が、空気中の音波を集めます。
  2. ホーンの狭まった端には、羊皮紙などの薄い振動膜がピンと張られています。
  3. この振動膜の中心には、豚の毛や細い金属などの尖った針(スタイラス)が取り付けられています。
  4. 手でクランクを回すと、ガラスや金属でできた円筒(シリンダー)が一定の速度で回転します。この円筒の表面には、ランプの煤(すす)を均一に塗った紙が巻き付けられています(時には、ガラスの円筒に直接煤を塗ることもありました)。
  5. ホーンから入ってきた音波が振動膜を震わせると、それに繋がった針も同じように振動します。回転する円筒の上を、この振動する針が滑りながら煤の層を引っ掻き、音の波形(振動のパターン)に応じた軌跡(線の上下の揺れや太さの変化)を描いていくのです。

こうして、目に見えない「音」が、煤の上に刻まれた一本の線、「フォノトグラム(Phonautogram)」として視覚化され、記録されました。

世界初の「録音」:1860年4月9日の歌声

スコットは、自身が発明したこのフォノトグラフを使い、様々な音を記録する実験を行いました。彼自身の話し声、他の人の歌声、楽器の音などが、フォノトグラムとして残されています。これらの記録は、主に音響学や音声学の研究者たちが、音の物理的な性質を分析するために利用されました。

そして、現存する数多くのフォノトグラムの中で、記録された日付が明確に判明している最も古いものが、1860年の今日、4月9日にパリで記録されたものです。

この歴史的なフォノトグラムには、スコットがフォノトグラフに向かって、当時フランスで広く知られていた子守唄・民謡である『月の光に(Au clair de la lune)』の冒頭の数秒間を歌った声が記録されていました。

「♪ Au clair de la lune, mon ami Pierrot, prête-moi ta plume…」(月の光に、友だちピエロよ、君のペンを貸しておくれ…)

この約10秒間の記録は、人類が意図的に自らの声を記録媒体に残した、現存する最古の証拠と考えられています。まさに、「録音」という技術の夜明けを告げる、貴重な記録なのです。

「音の化石」が蘇る:現代技術による音声再生

しかし、フォノトグラフには音を再生する仕組みがありませんでした。そのため、スコットが残したフォノトグラムは、長年にわたり、研究者たちが波形を分析するための「図」としてしか扱われず、そこに記録された実際の音がどのようなものであったのかを知ることはできませんでした。記録された音は、いわば「音の化石」として眠り続けていたのです。

ところが、21世紀に入り、デジタル技術の進歩がこの状況を一変させます。2008年、アメリカの物理学者や音響史の研究者たちによるグループ「First Sounds」が、驚くべき技術的ブレークスルーを成し遂げました。

彼らは、パリの科学アカデミーなどに保管されていたスコットのフォノトグラムを、特殊な装置を使って高解像度で光学的にスキャンしました。そして、煤の上に描かれたギザギザの線の画像をコンピューターに取り込み、画像処理技術を用いて線の揺れをデジタル音声信号に変換したのです。そしてついに、150年近くもの間誰も聞くことができなかった、フォノトグラムに記録された音を「再生」することに成功したのです!

この画期的な成果により、歴史が書き換えられました。1860年4月9日に記録された『月の光に』のフォノトグラムこそが、再生可能な人類最古の歌声(人の声)の記録であることが確実となったのです。(それまでは、エジソンが1877年に録音した『メリーさんのひつじ』が最古とされていました。)

初めて再生された1860年の歌声は、ノイズが多く、非常に幽玄な響きでした。当初、そのか細い声質から女性か子供の声ではないかと推定されました。しかし、その後の詳細な分析で、記録時の円筒の回転速度が当初考えられていたよりも速かった可能性が浮上し、再生速度を調整した結果、より自然な成人男性の声となり、おそらく発明者であるスコット自身の歌声であろう、と結論付けられています。

エジソンとの違いと歴史的意義

フォノトグラフの再発見と音声再生の成功は、音響記録技術の歴史におけるスコットの功績を再評価する大きなきっかけとなりました。

もちろん、トーマス・エジソンが1877年に発明した蓄音機(フォノグラフ)が、音を記録するだけでなく「再生」することも可能にした最初の大衆的な装置であり、その後のレコード産業やオーディオ技術の発展に直接つながる、画期的な発明であったことに変わりはありません。

しかし、スコットのフォノトグラフは、エジソンよりも20年も早く、「空気の振動である音を、物理的な媒体の上に永続的な形として記録する」という、録音技術の根本的なコンセプトを世界で初めて実現した点で、極めて重要な先駆者と言えます。(スコット自身は、エジソンの発明を知った際、自分のアイデアが応用された、あるいは盗用されたと考えていた節もあります。)

フォノトグラフは、音響学や音声学の発展に貢献し、そして何よりも、「音を記録する」という人類の夢への第一歩を記した、記念碑的な発明だったのです。

まとめ:よみがえった最古の声

1860年の今日、4月9日に、パリの一室でフォノトグラフの前に立ち、『月の光に』を歌ったエドゥアール=レオン・スコット・ド・マルタンヴィル。彼が煤の上に刻んだかすかな線の記録は、150年近い時を経て、現代のテクノロジーによって再び「声」を取り戻しました。

それは、音を「見る」ことから始まった、音響記録技術の長い旅の、まさに始まりの音でした。今日という日に、人類が初めて自らの声を記録媒体に残したこの瞬間に思いを馳せ、インターネットなどで公開されているこの「人類最古の声」に、ぜひ一度耳を傾けてみてはいかがでしょうか。そこには、160年以上前のパリの響きが、時空を超えて微かに聞こえてくるかもしれません。

※本記事では英語版も参考にしました

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