- 世界保健機関(WHO)は、「すべての人々が可能な最高の健康水準に到達すること」を目的とする、国際連合(国連)の専門機関です。本部はスイスのジュネーヴにあります。
- 1948年の今日、4月7日にWHO憲章が発効し、WHOが正式に設立されました。これを記念して、毎年4月7日は「世界保健デー」と定められています。
- WHOは、感染症対策(天然痘の根絶など)、世界的なパンデミックへの対応、生活習慣病対策、健康に関する国際基準の策定、各国への技術支援など、世界の人々の健康を守るために非常に幅広い活動を行っています。
- 近年ではCOVID-19への対応などでその役割が注目されましたが、一方で資金不足や組織運営、政治的な影響などの課題も指摘されています。
今日、4月7日は「世界保健デー(World Health Day)」です。この日は、世界中の人々の健康を守り、向上させるために活動している国際機関、WHO(世界保健機関 / World Health Organization)が正式に設立された日(1948年4月7日)を記念して制定されました。
近年、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な大流行によって、WHOの名前や活動に注目が集まりましたが、「具体的にどんな組織で、何をしているの?」と疑問に思っている方もいらっしゃるかもしれません。世界保健デーである今日、私たちの健康と密接に関わる国際機関、WHOについて、その役割や歴史を改めて見ていきましょう。
WHO(世界保健機関)とは?その目的と誕生
WHO(世界保健機関)は、第二次世界大戦の終結後、国際社会が恒久的な平和と安全保障を築こうとする中で、国際連合(国連)の設立と並行して構想された専門機関の一つです。その根本には、「人間の健康は、平和と安全を達成するための基礎であり、基本的人権の一つである」という考え方があります。
WHO憲章(設立の基本文書)は、その目的を「すべての人々が可能な最高の健康水準に到達すること (the attainment by all peoples of the highest possible level of health)」と明確に定めています。
この憲章が1948年の今日、4月7日に正式に発効し、WHOは活動を開始しました。これ以前にも国際連盟の下の保健機関や、特定の感染症対策を目的とした国際事務局などは存在しましたが、WHOはそれらの機能を引き継ぎ、より広範な権限と目的を持つ、世界規模での保健衛生問題を扱う初の統一的な国際機関となったのです。設立日である4月7日が「世界保健デー」と定められたのは、この歴史的な日を記念し、毎年、世界全体で健康問題への意識を高めるためです。WHO本部は、永世中立国であるスイスのジュネーヴに置かれています。
WHOはどんな活動をしているの?
WHOの活動は、単に病気の治療に関することだけではありません。「最高の健康水準」とは、単に病気でない、弱っていないということではなく、肉体的、精神的、そして社会的に完全に良好な状態(ウェルビーイング)にあることを意味するとWHO憲章は定義しており、その達成のために非常に幅広い分野で活動しています。
感染症との長い闘い
WHOの活動として最もよく知られているのが感染症対策です。歴史的には、1980年に達成された天然痘の根絶宣言が最大の成果として挙げられます。これは、人類が地球上から完全に撲滅することに成功した唯一の感染症です。現在も、ポリオ(小児まひ)の根絶に向けた最終段階の取り組みや、マラリア、結核、HIV/AIDSといった依然として多くの人々の命を脅かす三大感染症の対策、そしてエボラ出血熱のような突発的で致死率の高い感染症の封じ込めなどに、世界各国と協力して取り組んでいます。
パンデミック(世界的流行)への対応
新型インフルエンザ(2009年)、SARS(2003年)、そして記憶に新しいCOVID-19(2019年~)のように、新型の感染症が国境を越えて急速に拡大し、世界的な脅威となる「パンデミック」が発生した場合、WHOはその対応において中心的な役割を果たします。世界中の情報を集約・分析し、リスクを評価して国際社会に警告を発し(PHEIC: 国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態の宣言など)、科学的根拠に基づいた対策ガイドラインを作成・提供し、ワクチンや治療薬の開発・公平な分配を調整し、途上国への技術支援を行うなど、その役割は多岐にわたります。
生活習慣病(非感染性疾患、NCDs)との戦い
現代社会では、がん、心臓病、脳卒中、糖尿病、慢性呼吸器疾患といった生活習慣病(非感染性疾患)が、感染症を上回る主要な死亡原因となっています。WHOは、これらの病気の最大の原因である喫煙、不健康な食事、運動不足、過度の飲酒といったリスク要因を減らすための国際的な目標を設定し、各国の政策立案(たばこ規制、食品表示、都市計画など)を支援しています。
生涯を通じた健康の支援
母子保健(安全な妊娠・出産、乳幼児の健康)、栄養改善(栄養失調と肥満の両方への対策)、メンタルヘルス(精神疾患への偏見をなくし、適切なケアを提供)、高齢者の健康維持など、ライフステージに応じた健康問題にも取り組んでいます。
健康を取り巻く環境への働きかけ
大気汚染、水質汚染、化学物質、気候変動といった環境要因が健康に与える影響も重視し、対策を進めています。
保健システムの基盤強化
世界中の誰もが、経済的な困難に関わらず、必要な時に質の高い保健医療サービスを受けられる状態を目指す「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」の達成を、WHOは最重要目標の一つに掲げ、各国の保健医療制度の強化を支援しています。
基準設定と情報発信
病気の診断や統計のための国際的な基準である「国際疾病分類(ICD)」を作成・改訂したり、安全で効果的な医薬品をリスト化した「必須医薬品モデルリスト」を提示したりすることもWHOの重要な仕事です。また、世界各国の健康に関するデータを収集・分析し、「世界保健統計」として公表することで、各国の政策決定や研究に役立てています。
WHOの仕組みと財政
WHOは、国連加盟国を中心に、現在194の国と地域が加盟しています。
- 組織の最高意思決定機関は、年に一度開催される世界保健総会(World Health Assembly)です。ここでは、全加盟国の代表が集まり、WHO全体の活動方針や予算を決定し、5年任期の事務局長を選出します。
- 総会で選出されたメンバーで構成される執行理事会が、総会の決定事項を実行に移し、次の総会の議題を準備します。
- 日々の具体的な活動は、事務局長(Director-General)をトップとする事務局職員によって行われます。事務局は、ジュネーヴの本部のほか、世界を6つの地域(アフリカ、アメリカ、東南アジア、ヨーロッパ、東地中海、西太平洋)に分け、それぞれの地域事務局が担当地域のニーズに合わせた活動を展開しています(日本はマニラにある西太平洋地域事務局の管轄です)。
WHOの活動を支える財源は、主に2種類あります。一つは、加盟国がその経済力などに応じて支払う分担金。もう一つは、加盟国や他の国際機関、民間財団(例えば、ビル&メリンダ・ゲイツ財団はWHOへの主要な資金提供者の一つです)、企業などから任意で提供される任意拠出金です。近年、この任意拠出金の割合が増える傾向にあり、特定の目的(例えば、特定の病気の対策など)に使われる資金が増える一方で、WHO全体の基本的な活動や、緊急時の柔軟な対応に必要な資金の確保が課題となることもあります。また、特定の資金提供者の意向が、WHOの活動の優先順位に影響を与えるのではないか、という懸念も指摘されています。
成果とこれからの課題
WHOは、設立から75年以上にわたり、世界の公衆衛生の向上に多大な貢献をしてきました。前述の天然痘根絶という歴史的偉業をはじめ、ポリオの発生数を99%以上減少させ、多くの感染症の予防や治療を進歩させ、国際的な協力体制を築き、健康に関する人々の意識を高めてきました。
しかし、その一方で、WHOは常に様々な課題や批判にも直面しています。
- 数千人規模の職員を抱える巨大な国際機関であるがゆえの、官僚主義や組織の硬直性、意思決定の遅さが指摘されることがあります。
- 活動範囲が広範であるため、常に資金不足の問題を抱えており、安定した財源の確保が大きな課題です。
- COVID-19のパンデミック対応では、発生初期の情報の取り扱いや対応の遅れ、また特定の国(特に中国やアメリカ)との関係における政治的な影響力への懸念などが、世界中から厳しい目で問われました。
- 加盟国間の利害が対立し、全会一致での合意形成が困難になる場面もあります。
- 地球温暖化に伴う熱波や感染症リスクの増大、薬剤耐性菌の拡大、依然として深刻な国や地域による健康格差の是正など、現代社会が直面する新たな健康脅威への対応も、WHOにとって喫緊の課題です。
まとめ:「すべての人々に健康を」への挑戦は続く
1948年の今日、4月7日に「すべての人々が可能な最高の健康水準に到達すること」という崇高な理想を掲げて誕生したWHO(世界保健機関)。その道のりは決して平坦ではありませんでしたが、多くの困難を乗り越えながら、感染症との闘いをはじめ、世界の公衆衛生の向上に貢献し続けてきました。
私たちが生きる現代は、パンデミック、気候変動、紛争、そして依然として残る貧困や格差など、人々の健康を脅かす要因がますます複雑化し、グローバル化しています。このような時代だからこそ、国境を越えて科学的知見を結集し、協力して課題に立ち向かうための国際的な枠組み、そしてその中核となるWHOの役割は、計り知れないほど重要になっています。
「世界保健デー」である今日、まずは自分自身の健康に関心を持つとともに、遠い国の人々の健康にも思いを寄せ、そしてその実現のために日々奮闘しているWHOという組織の存在と、その活動、そして未来への挑戦について、少し考えてみる機会にしてみてはいかがでしょうか。




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