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【本当に何もない町】ナッシング:人口4人のゴーストタウンが残した「自虐的な看板」とアメリカン・ジョーク

地理・歴史
この記事のざっくりまとめ
  • ナッシング(Nothing)」は、アメリカ合衆国アリゾナ州のモハーヴェ郡にある、現在では誰も住んでいないゴーストタウンです。
  • 名前を直訳すると「何もない」。このユニークすぎる珍地名は、地元民曰く「酔っ払いたちが集まって適当に名付けた」と言われています。
  • 1977年に設立され、最盛期でも人口はわずか4人。砂漠を貫くハイウェイ沿いにある小さなガソリンスタンドと売店だけの集落でした。
  • 町の入り口には「我々はナッシング(無)を信じ、ナッシングのために働いた」という強烈な自虐ギャグが書かれた名物看板が掲げられていました。
  • 何度か町を再興しようとする試み(ピザ屋の開業など)がありましたがすべて失敗し、現在では文字通り「何もない」廃墟となっています。

「どこか遠くへ行きたい。誰も知らない、何もない場所へ……」

都会の生活に疲れた時、私たちはふとそんなことを考えます。しかし、世界にはその願いを文字通り叶えてくれる、究極の地名を持つ場所が存在します。

その名も「ナッシング(Nothing:何もない)」。

アメリカのアリゾナ州、見渡す限りの荒野を貫く国道93号線沿いに、かつてこの名前の小さな集落がありました。現在は廃墟となり、文字通りの「何もない場所」になってしまったこの町ですが、かつてここには、過酷な砂漠の環境を笑い飛ばすような、最高にアメリカンなユーモアが溢れていました。

今回は、世界の珍地名リストの常連でもあるゴーストタウン「ナッシング」の歴史と、そこに残された愛すべきジョークについてご紹介します。

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誕生のきっかけは「酔っ払いの思いつき」?

ナッシングがあるのは、アリゾナ州フェニックスから北西へ約160km、ラスベガスへと続く広大な砂漠のハイウェイ(国道93号線)の道中です。周囲には本当に荒野しかなく、夏の最高気温は40℃を超える過酷な環境です。

この集落は1977年、リチャード・バディ・ケンワージーという人物によって設立されました。彼はここにガソリンスタンドと小さな売店、そして自動車修理のガレージを建て、通りがかる長距離ドライバーたちのオアシスにしようとしました。

気になる「ナッシング」という名前の由来ですが、地元で語り継がれている伝説によれば「酔っ払いの集まりが名付けた」とされています。おそらく、周囲を見渡しても土とサボテン以外に「本当に何もない」ことから、お酒の勢いでそのまま地名にしてしまったのでしょう。なんともアメリカらしい適当で大らかなネーミングです。

最盛期の人口は4人。名物の「自虐看板」

「町」とは言っても、ナッシングの最盛期の人口はわずか4人でした(9人だったという説もあります)。彼らはガソリンスタンドと、「オールマート(All-Mart)」と名付けられた小さなコンビニエンスストア(おそらく巨大スーパーのウォルマートをもじった冗談でしょう)を共同で運営し、地元の鉱石などを旅行者に売って生活していました。

この町の最大のハイライトは、彼らが建てた「木製の町の看板」です。そこには、自分たちの境遇を最高に皮肉った、次のような素晴らしいメッセージが刻まれていました。

Town of Nothing Arizona. Founded 1977. Elevation 3269ft.
(アリゾナ州ナッシングの町。1977年設立。標高3269フィート)

The staunch citizens of Nothing are full of Hope, Faith, and Believe in the work ethic. Thru-the-years-these dedicated people had faith in Nothing, hoped for Nothing, worked at Nothing, for Nothing.
(ナッシングの熱心な市民は、希望と信仰、そして労働倫理への信念に満ちています。長年にわたり、この献身的な人々はナッシング(無)を信じ、ナッシングを望み、ナッシングで働き、ナッシングのために働いたのです。)

何もない砂漠のど真ん中で、誇り高く「無」のために働く。この哲学的なのか自虐的なのか分からない見事な言葉遊びの看板は、ハイウェイを通りかかる多くの旅行者の心を掴み、人気の写真撮影スポットになりました。

繰り返される衰退と「ピザ屋」の夢

しかし、ナッシングの平和(?)な日々は長くは続きませんでした。1988年に火災で建物が焼失し、その後再建されたものの、最終的に2005年に創業者のケンワージーがこの地を離れたことで、町は完全に放棄されました。

その後、2008年にこの「何もない土地」に惚れ込んだマイク・ジェンセンというビジネスマンが土地を買い取ります。彼は携帯用のオーブンを持ち込んでピザ屋を開業し、キャンピングカー(RV)向けの施設を作って町を再興しようと奮闘しました。

しかし、やはり「何もない」場所でのビジネスは厳しく、数年後の2011年までには彼も去り、ナッシングは再び完全なゴーストタウンへと戻ってしまいました。現在では、窓に板が打ち付けられた建物の残骸と、朽ちかけた看板だけが寂しく残されています。

「父の日に『何もいらない』と言うお父さんへ」

完全に終わってしまったかに見えたナッシングですが、2016年に思わぬ形で全米の注目を集めることになります。

アメリカの大手不動産会社「センチュリー21(Century 21)」が、父の日に向けて非常にユーモアのあるプロモーションを行いました。毎年父の日になると、お父さんたちはプレゼントを聞かれて「何もいらないよ(Nothing)」と答えます。そこで不動産会社は、「本当に『ナッシング』をプレゼントしよう!」と企画したのです。

彼らは現在の土地所有者と協力し、父の日(6月19日)の24時間限定で、ナッシングの土地のリース権(一時的な所有権)と「ナッシング証明書」を無料でダウンロードできるキャンペーンを実施しました。「お父さんに『何もない』をプレゼントできる」というこの粋なジョークは、ネット上で大きな話題を呼びました。

まとめ:何もないけれど、物語がある

現在のナッシングには、本当に立ち寄る理由が「何一つ」ありません。朽ちた建物と、フェンス、そして砂埃だけです。

しかし、この町の歴史を振り返ると、そこには砂漠の真ん中で商売を始めようとした男たちの野心と、自分たちの過酷な環境を言葉遊びで笑い飛ばす大らかなユーモアがありました。「ナッシング(無)」という自虐的な看板を掲げながらも、彼らは確かにそこに存在し、通り過ぎる旅行者たちにささやかな笑顔を提供していたのです。

もしあなたがアメリカのハイウェイを車で旅していて、ルート93の途中で「Nothing」と書かれた古びた看板を見つけたら。ぜひ車を停めて、かつてここで「無のために」一生懸命に働いた4人の市民たちのことを思い出してみてください。何もない場所にこそ、人間臭くて愛おしい物語が隠されているものです。

【参考リンク】
ナッシング (アリゾナ州) – Wikipedia
※本記事では英語版も参考にしました

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