- 「ドナルドダック党」とは、スウェーデンの国政選挙などに登場していた実在しない架空の政党です。
- 「今の政治家は誰も信用できない!」「投票したい政党がない!」という有権者が、抗議の意思を示すために白紙の投票用紙に「ドナルドダック党」と手書きで書き込んだのが始まりです。
- スウェーデンにおけるドナルドダック(現地名:カッレ・アンカ)の圧倒的な人気と、北欧特有のユーモアが結びついて誕生しました。
- 単なる一部の悪ふざけにとどまらず、1991年の総選挙ではなんと1,535票を獲得し、実在する小さな政党を差し置いてスウェーデン第9位の勢力に躍り出るという伝説を残しました。
- 現在では選挙法が改正され、事前に登録されていない政党への投票は無効(白票扱い)となりましたが、今でも「究極の抗議票」のシンボルとして語り継がれています。
選挙の時期になると、「どの候補者もイマイチだなぁ」「入れたい政党が一つもない」と頭を抱えることはありませんか?そんな時、日本の場合は何も書かずに投票箱に入れる「白票」を投じたり、あるいは選挙に「行かない(棄権)」という選択をする人が多いかもしれません。
しかし、福祉国家であり非常に政治意識の高い国として知られるスウェーデンの有権者たちは、一味違いました。彼らは「無能な政治家たちへの強烈な皮肉」として、なんとディズニーのキャラクターを勝手に政党の代表に仕立て上げ、大量の票を投じたのです。
今回は、世界の選挙史に残る最高にクールでユーモラスな抗議活動、「ドナルドダック党」の伝説についてご紹介します。
なぜ「ドナルドダック」だったのか?
スウェーデンでは伝統的に、選挙の投票所に「各政党の名前があらかじめ印刷された投票用紙」と、「有権者が自分で自由に名前を書き込める白紙の投票用紙」の両方が用意されていました。有権者は、もし既存の政党に不満があれば、白紙の用紙に好きな言葉を書いて投票することが認められていたのです(かつては、書かれた内容が集計され、公式な記録として残されていました)。
そこで抗議票のシンボルとして白羽の矢が立ったのが、ディズニーの人気キャラクター「ドナルドダック」でした。
スウェーデンでは、ドナルドダックは「カッレ・アンカ(Kalle Anka)」と呼ばれ、ミッキーマウスを凌ぐほどの国民的な大人気キャラクターです。特にクリスマスイブには、家族全員でドナルドダックの特別番組を見るのがスウェーデンの絶対的な国民的行事となっています。
嘘ばかりつく政治家たちに国を任せるくらいなら、いつも不運だけど正直で、誰からも愛されているあのアヒルに国を任せたほうがマシだ!
そんな北欧らしいブラックユーモアから、白紙の投票用紙に「Kalle Anka-partiet(ドナルドダック党)」と書き込む人々が現れ始めたのです。
大躍進! ついに「スウェーデン第9党」へ
最初はほんの数人の悪ふざけだったドナルドダック党ですが、その「ふざけた抗議」は口コミで徐々に広まっていきました。
1985年の選挙で227票を獲得すると、続く1988年の選挙ではさらに票を伸ばします。そして伝説となったのが1991年の総選挙です。 この年、政治への不満を爆発させた有権者たちがこぞってアヒルに票を託した結果、ドナルドダック党はなんと1,535票を獲得しました。
これは単なる面白ニュースの枠を超えた数字でした。なぜなら、真面目に選挙活動を行っていた数多くの実在する小政党の得票数をあっさりとごぼう抜きにし、スウェーデン国内で「第9位の得票数を持つ政党」になってしまったからです。
何百万人という有権者の中で見れば1,535票は決して多くはありませんが、「実在しないふざけた政党が、トップ10入りを果たした」という事実は、当時のスウェーデン政界に小さからぬ衝撃(と恥辱)を与えました。
焦った政府による「法律改正」とその後
ドナルドダック党の快進撃は、政府にとって看過できない事態となりました。
公式な選挙結果の記録に「9位:ドナルドダック党、以下にはミッキーマウス党、神様党、ビール党……」といった名前が永遠に残るのは、国家の威信に関わると判断されたのです。
その結果、スウェーデン政府は1998年に選挙法を改正しました。
手書きの投票用紙であっても、あらかじめ国の選挙管理機関に公式登録された政党名(あるいは候補者名)でなければ、すべて単なる「無効票(白票)」としてまとめて処理し、個別の名称は集計しない
というルールに変更したのです。このルール変更により、ドナルドダック党は公式な記録から姿を消すことになりました。
※ちなみに2002年や2006年に、ある一般人がドナルドダック党を「公式な政党」として真面目に登録しようと試みましたが、著作権の問題などで選挙管理委員会に却下されています。
まとめ:白票よりも重い「ユーモアの力」
現在では法改正により、ドナルドダック党に投票してもただの「無効票1」として処理されるだけになってしまいました。しかし、それでもなお、一部のスウェーデン人は意地になって投票用紙に「Kalle Anka(カッレ・アンカ)」と書き続けていると言われています。
彼らの行動は、ただの「政治への無関心」や「おふざけ」ではありません。 本当に政治に無関心な人は、そもそも投票所に足を運びません。わざわざ投票所へ行き、手書きの用紙にキャラクターの名前を書き込んで投函する行為には、「私は選挙権を行使する意志があるが、お前たち政治家の中には一人もふさわしい人間がいない」という、極めて積極的で強烈な意志が込められています。
ただ何も書かずに「白票」を入れるよりも、みんなが知っている「アヒル」の名前を書く方が、よっぽどニュースになり、政治家たちにとって痛烈な皮肉のメッセージとなる。
ドナルドダック党の歴史は、怒りや不満をあえて「ユーモア」で包み込んで政治に突きつける、非常に洗練された民主主義の形を私たちに教えてくれます。次にあなたが選挙で「誰に入れたいか分からない」と悩んだ時、ドナルドダック党の精神を思い出せば、政治の見方が少しだけ面白くなるかもしれません。
【参考リンク】
ドナルドダック党 – Wikipedia
※本記事では英語版、スウェーデン語版も参考にしました



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