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【おいしい所だけ頂きます】クリーム・スキミングとは? 企業に「美味しい客」だけを狙われると、社会のインフラが崩壊する理由

政治・経済
この記事のざっくりまとめ
  • クリーム・スキミング」とは、企業が市場の中で「最も利益が出やすい(コストが低い)顧客や地域」だけをターゲットにし、利益の出にくい部分を切り捨てるビジネス戦略のことです。
  • 語源は、絞りたての新鮮な牛乳を置いておくと上に分離して浮いてくる、「一番おいしくて価値の高い脂肪分(クリーム)だけをすくい取る(スキム)」という酪農の作業から来ています。
  • 特に、郵便、通信、鉄道といった「全国どこでも一律のサービス(ユニバーサルサービス)」を提供する公益事業の分野で問題になります
  • 新規参入企業が都市部などの「儲かる地域」だけにサービスを展開すると、元々全国をカバーしていた既存のインフラ企業は赤字部門だけを抱え込むことになり、サービスが維持できなくなってしまいます
  • ビジネスとしては非常に合理的で賢い戦略ですが、社会全体の公平性を保つ観点からは「ずるい」「インフラを破壊する」として、ネガティブな意味(批判の言葉)として使われることが多い用語です。

絞りたての新鮮な牛乳をしばらく静置しておくと、上の方に濃厚な脂肪分が分離して浮いてきます。これが、バターや生クリームの原料となる「クリーム」です。この一番おいしくて価値の高い部分だけをサッとすくい取る作業を、英語で「スキム」と言います。

ビジネスや経済学の世界には、この酪農の作業を例えに使った「クリーム・スキミング」という有名な用語があります。一見すると美味しそうで魅力的な言葉に聞こえますが、実はこれ、私たちの生活を支える郵便や鉄道、医療といった「社会インフラ」を崩壊させかねない、非常に厄介でシビアな問題をはらんだ言葉なのです。

今回は、企業による「おいしい所取り」がなぜ社会問題になるのか、クリーム・スキミングのカラクリについて分かりやすく解説していきます。

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ビジネスにおける「クリーム」とは何か?

ビジネスにおける「クリーム(美味しい部分)」とは、ズバリ「少ないコストで、大きな利益をもたらしてくれる優良顧客」のことです。

例えば、あなたが荷物を配達する宅配業者だったとしましょう。

  • A(クリーム)
    高層オフィスビルが立ち並ぶ大都市の企業。一度に大量の荷物を送れるし、移動距離も短く効率が良い。
  • B(薄い牛乳)
    山奥の限界集落に住むおばあちゃん。月に一度、小さな荷物を一つ送るだけ。そこへ行くためのガソリン代と人件費で完全に赤字になる。

もしあなたが利益を第一に考える経営者なら、間違いなく「大都市の企業(A)」だけをターゲットにして商売をしたいはずです。

このように、利益の出やすい美味しい部分(クリーム)だけに参入し、面倒でコストのかかる不採算部門(B)には見向きもしない。これが「クリーム・スキミング」です(※似た言葉に、都合のいい証拠だけをつまみ食いする「チェリー・ピッキング」があります)。

これは、いち企業としては極めて合理的で正しい戦略です。しかし、これが国全体に関わる「インフラ(公益事業)」で起こると、深刻な問題が発生します。

ユニバーサルサービスの崩壊:なぜ「ズルい」と言われるのか

日本郵便やNTT、あるいは国鉄(現在のJR)のような、歴史的に国が関わってきた巨大なインフラ企業は、「ユニバーサルサービス(あまねく広く、公平に)」という使命を負わされています。

つまり、「東京のど真ん中だろうが、北海道の山奥だろうが、沖縄の離島だろうが、基本的には同じ料金・同じ品質で手紙を届け、電話線を繋がなければならない」というルールです。当然、過疎地へのサービスはコストがかかり大赤字になります。

ではどうやってその赤字を埋めているのか?
答えは「都市部の儲け(クリーム)」です。 東京や大阪で出た莫大な黒字を使って、地方の赤字を埋め合わせることで、なんとか全国一律のサービスを維持しています。これを経済学で「内部相互補助」と呼びます。

規制緩和と新規参入者の「おいしい所取り」

ところが、時代が進んで規制緩和が行われ、「民間企業も自由に通信や郵便事業に参入していいですよ」となるとどうなるでしょうか。

新規参入した企業は、ユニバーサルサービスの義務を負っていません。だから、「東京や大阪などの大都市(一番儲かるクリームの部分)」だけに限定してサービスを開始します。過疎地の赤字を埋める必要がないため、既存のインフラ企業よりも「圧倒的に安い料金」を設定することができます。

すると、都市部の優良顧客はこぞって安い新規企業に乗り換えてしまいます。残された既存のインフラ企業は、「赤字を埋めてくれていた美味しいクリーム」をすべて奪われ、「コストばかりかかる過疎地のサービス(薄い牛乳)」だけを押し付けられることになります。

結果として、既存企業は経営が成り立たなくなり、「過疎地の郵便局の閉鎖」「地方路線の廃線」「全体の料金値上げ」をせざるを得なくなります。新規参入企業は「我々は企業努力で安くしている!」と主張しますが、既存企業からすれば「そりゃあ、赤字の田舎を切り捨てて、儲かる都市部(クリーム)だけをスキミングすれば誰だって安くできるよ! ずるい!」となるわけです。

インフラ以外でも起こるクリーム・スキミング

この問題は、交通や通信だけでなく、様々な分野で発生します。

  • 医療保険(アメリカなどの民間保険)
    保険会社が、若くて健康で「病気になりにくい人(クリーム)」だけを好条件で加入させ、持病がある高齢者などの「コストがかかる人」の加入を拒否したり、保険料を跳ね上げたりする行為もクリーム・スキミングと呼ばれます。
  • 教育(チャータースクール・学校選択制)
    アメリカなどで、自由な学校運営ができる学校(チャータースクール)が設立された際、成績優秀で手のかからない生徒(クリーム)ばかりを入学させ、学習障害や問題行動を抱えた手のかかる生徒を公立学校に押し付けてしまう問題が指摘されています。

まとめ:効率化か、社会の公平性か

「クリーム・スキミング」は、自由競争の市場においては「賢いビジネス戦略」です。無駄なコストを省き、ターゲットを絞ることは経営の基本だからです。

しかし一方で、私たちが生きる社会には、「採算が取れなくても、誰かがやらなければならないこと(地方の交通網、僻地の医療、郵便など)」が確実に存在します。すべてのサービスを完全な自由競争にしてクリーム・スキミングを放置すれば、社会的弱者や地方に住む人々は切り捨てられ、社会全体が機能不全に陥ってしまいます。

「効率化と自由競争」を進める一方で、「社会全体の公平性とセーフティネット」をどう守るのか。 クリーム・スキミングという言葉は、資本主義社会が常に抱え続けている、この難しくも重要なジレンマを見事に言い表しているのです。

【参考リンク】
クリーム・スキミング- Wikipedia
※本記事では英語版も参考にしました

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