- 「キリマンジャロ」は、アフリカ東部のタンザニアにそびえる標高5,895mのアフリカ大陸最高峰です。山脈に属さない「独立峰」としては世界一の高さを誇ります。
- 日本ではコーヒーの銘柄などで「キリマン」と略されがちですが、言葉の区切りは「キリマ・ンジャロ」です。「キリマ(山)」と「ンジャロ(白さ・輝き)」で「白く輝く山」という意味だとする説が有名です。
- 赤道直下にあるにもかかわらず山頂には氷河が存在し、麓から山頂に向かって「熱帯雨林」から「北極圏(極地)」まで、地球上のほぼすべての気候帯が地層のように重なっているのが最大の特徴です。
- 登山ルートを進むにつれ、巨大化した不思議な固有植物(ジャイアントセネシオなど)が現れるなど、まるで別の惑星を旅しているかのような劇的な景観の変化を楽しめます。
- しかし現在、地球温暖化や降水量の減少により、山頂の象徴的な氷河が急速に縮小しており、近い将来消滅してしまうのではないかと危惧されています。
「キリマンジャロ」。
私たち日本人にとっても、非常に馴染み深い名前です。喫茶店で美味しいコーヒーのメニューとして目にする機会も多いですし、アーネスト・ヘミングウェイの名作小説『キリマンジャロの雪』を思い浮かべる方もいるでしょう。
広大なアフリカのサバンナの向こうに、頂を真っ白な雪と氷河で覆われた巨大な山がそびえ立つ風景。それは「野生の王国」アフリカを象徴する、最も美しくドラマチックな絶景の一つです。
しかし、この山の本当の凄さは「ただ高いこと」ではありません。キリマンジャロは、その巨大さゆえに「たった一つの山の中に、地球全体の気候をすべて詰め込んだような奇跡の環境」を生み出しているのです。
今回は、名前の意外な由来から、登山者を魅了してやまない「熱帯から寒帯へのタイムトラベル」、そして消えゆく氷河の謎について、たっぷり解説していきます。
あなたはどこで区切る? 「キリマ・ンジャロ」の語源
本題に入る前に、まずはこの美しい山の「名前」について触れておきましょう。
日本では「キリマン・ジャロ」あるいは単に「キリマン」と略して呼ばれることが多いですが、実は言葉の正しい区切り位置は「キリマ・ンジャロ」です。
この名前の由来については、長年多くの言語学者や探検家が議論を交わしてきましたが、最も有名でロマンチックな説は次のようなものです。
現地の公用語であるスワヒリ語で「キリマ(Kilima)」は「山」を意味します。そして、現地のチャガ族の言葉などで「ンジャロ(Njaro)」は「白さ」や「輝き」を意味します。これらが合わさって、「白く輝く山」と呼ばれるようになったという説です。
他にも、チャガ語の「キレレマ(難しい)」と「ンジャーレ(鳥)」あるいは「ジャーロ(キャラバン)」が合わさった「鳥でも越えられない山」「キャラバンを打ち負かす山(Kilemakyaro)」が語源だとする説や、ンジャロという「山の悪霊」の名前だとする説もあります。
いずれにせよ、昔の人々にとって、灼熱の赤道直下にあるにもかかわらず、頂上が白く凍りついているこの山は、畏怖と神秘の対象だったのです。
地球の気候をコンプリート! 5つの別世界
キリマンジャロの最大の魅力は、山脈の一部ではなく、平原からポンと単独でそびえ立っている「独立峰」であることです。海抜約900mの広大なサバンナから、一気に約5,900mの山頂まで立ち上がっているため、標高が上がるにつれて「赤道から北極へ歩いて向かうのと同じような気候の変化」を体験することができます。
具体的には、大きく5つの気候帯(エコ・ゾーン)に分かれています。
1. 耕作・サバンナ地帯(標高約800m〜1,800m)
麓の地域は、年間を通して暖かく、雨も豊富に降るため非常に肥沃です。ここには現地のチャガ族などが住み、日本でも有名な「キリマンジャロ・コーヒー」やバナナの広大な農園が広がっています。
2. 熱帯雨林・雲霧林地帯(標高1,800m〜2,800m)

(出典:wikimedia commons)
登山口を出発すると、すぐにうっそうとしたジャングルに入ります。ここは常に雲や霧に包まれた「雲霧林(うんむりん)」と呼ばれる湿度の高い森で、巨大なシダ植物や、木の枝から垂れ下がるサルオガセ(とろろ昆布のような地衣類)が幻想的な風景を作っています。野生のサル(ブルーモンキーなど)や鳥たちも多数生息しています。
3. ヒース・ムーアランド(荒野)地帯(標高2,800m〜4,000m)
アフリカのケニア山、標高4500mで巨大な植物に遭遇。高さ5m以上にもなるジャイアント・セネシオです。こうした奇妙な植物は周辺に幾種類も見られます。#世界遺産 #アフリカ #ケニア山 pic.twitter.com/Wc8zzNjT2e
— 世界遺産 (@heritage_TBS) April 2, 2018
森林限界を超えると、高い木は姿を消し、背の低い低木や草に覆われた荒涼とした風景に変わります。ここでの見どころは、キリマンジャロならではの「巨大化した固有植物」たちです。 強烈な紫外線と昼夜の寒暖差から身を守るため、まるで宇宙植物のように進化した「ジャイアント・セネシオ(巨大なキャベツの木のような植物)」や「ジャイアント・ロベリア」がニョキニョキと生え並ぶ光景は、SF映画のワンシーンのようです。
4. 高山砂漠地帯(標高4,000m〜5,000m)
さらに上へ行くと、雨がほとんど降らない極度に乾燥した「砂漠」になります。植物も動物もほぼ生きられない、過酷な岩と砂礫だけの不毛な世界です。日中は強烈な太陽が照りつけますが、夜になると気温は氷点下まで急降下します。
5. 北極圏(山頂)地帯(標高5,000m〜5,895m)

(出典:wikimedia commons)
そしていよいよ山頂(ウフル・ピーク)に近づくと、赤道直下のアフリカであることを完全に忘れてしまうような、雪と「巨大な氷河」の壁が立ちはだかる氷点下の世界(Arctic zone)に到達します。空気は地上の半分しかなく、まさに極地そのものです。
数日間のトレッキングの中で、これほど目まぐるしく世界の景色が変わる山は、地球上で他に類を見ません。
「キリマンジャロの雪」は消えてしまうのか?
山頂に広がる美しい氷河は、何十万年も前から存在しているとされていますが、近年、世界中の環境問題の象徴として悲しい注目を集めています。
この山頂の氷河が、驚くべきスピードで縮小・後退しているのです。 20世紀初頭(1912年)に観測された氷河の面積と比較すると、現在までにその約85〜90%がすでに消失してしまいました。「早ければ数十年以内にキリマンジャロの氷は完全に消滅する」と予測する科学者もいます。
原因は単純な「気温の上昇(温暖化)」だけではありません。近年の研究では、インド洋の海水温の変化などによって東アフリカ周辺の気候が変化し、「山頂付近の降雪量(水分)が劇的に減って極度に乾燥してしまったこと」が主な原因だと考えられています。雪が降らないため氷河が補充されず、強い日差しと乾燥によって氷が直接水蒸気になってしまう「昇華」という現象が起きているのです。
ヘミングウェイが描いたような、山頂をすっぽりと覆う「キリマンジャロの雪」は、遠い未来には伝説の中だけの風景になってしまうのかもしれません。
まとめ:自分の足で地球を感じる山
キリマンジャロは標高6,000m近い超高山ですが、ロープを使ったり岩壁をよじ登ったりするような専門的な技術は必要なく、歩いて登れる(トレッキングできる)山として世界中の登山愛好家から人気を集めています。もちろん高山病との戦いになるため過酷ですが、一般人でも挑戦できる最高峰の一つです。
ジャングルで汗を流し、エイリアンのような高山植物に驚き、そして息を切らしながら万年雪を踏みしめる。 「キリマ・ンジャロ」は、私たちに地球という星の気候の多様性と、その圧倒的な自然の美しさ、そして環境変化の脆さを、ひとつの山だけで教えてくれる偉大な「大自然の教室」なのです。
【参考リンク】
キリマンジャロ – Wikipedia
※本記事では英語版も参考にしました



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