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【ミステリーの定番】レッド・ヘリング(燻製ニシンの虚偽)とは? 読者をダマし、議論をすり替える「臭い魚」の正体

言語・文化
この記事のざっくりまとめ
  • 燻製ニシンの虚偽」または「レッド・ヘリング(Red herring:燻製ニシン)」とは、議論や物語において、人々の注意を重要な問題からそらすために提示される「偽のヒント」や「関係のない話題」のことです。
  • ミステリー小説や映画では、「いかにも怪しい行動をとっているが、実は全く無実の人物」や「偽の証拠」など、読者の推理をミスリードするためのお約束のテクニックとして頻繁に登場します。
  • 語源は、19世紀のイギリスのジャーナリストが、「匂いの強い燻製ニシンを使って、猟犬の嗅覚を狂わせて獲物から気をそらせる」という例え話を書いたことに由来します。
  • 論理学やディベートの場では、「Aの話題をしているのに、突然無関係なBの話題を持ち出して話をはぐらかす」という論点のすり替え(論理的誤謬)の一種として批判の対象になります。
  • 投資・金融の世界でも、まだ正式に承認されていない新規公開株(IPO)の「仮条件目論見書」のことを、表紙に赤い文字で注意書きがされることから「レッド・ヘリング」と呼びます。

殺人事件を描いたミステリー小説を読んでいると、必ずと言っていいほど「いかにも怪しい人物」が登場しますよね。被害者に恨みを持っていて、事件当夜のアリバイもなく、凶器と同じナイフを隠し持っている。誰もが「こいつが犯人だ!」と確信した矢先……実はただの泥棒だったり、誰かをかばっていただけで殺人とは無関係だったりして、真犯人は全く別の「一番いい人そうなキャラクター」だったりします。

このように、読者や名探偵の注意を「真実」から遠ざけるために用意された偽のヒントや、怪しいけれど無実のキャラクターのことを、ミステリー用語で「レッド・ヘリング(Red herring)」と呼びます。

直訳すると、なんと「赤いニシン(燻製ニシン)」。なぜ、読者をダマす巧妙なトリックが、臭くて美味しそうな魚の名前で呼ばれているのでしょうか?

今回は、文学から政治の討論にまで幅広く使われる「レッド・ヘリング(燻製ニシンの虚偽)」の面白い語源と、その厄介な性質について解説していきます。

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なぜ「燻製ニシン」なのか? 意外な語源の真実

レッド・ヘリング」とは、ニシンを濃い塩水に漬け込み、時間をかけて強く燻製にした保存食のことです。この過程で魚の身が赤茶色に変色し、非常に強烈な匂いを放つようになります。

なぜこれが「注意をそらすもの」の代名詞になったのか。かつては「逃亡中の犯罪者が、追ってくる警察犬の鼻をバカにするために、匂いの強いニシンを道に投げ捨てたからだ」という説が広く信じられていました。しかし、現代の調査でこの説はフィクションであることが分かっています。

本当の語源は、1807年にイギリスのジャーナリスト、ウィリアム・コベットが書いた新聞記事にあります。 彼は記事の中で、自分の子供の頃の体験として

ウサギを追っている猟犬の気をそらすために、匂いの強い燻製ニシンを引きずって別の方向に誘導したことがある

というエピソードを語りました。そして、当時のイギリスの報道機関が、ナポレオン戦争の敗北という「本当に重要なニュース」から国民の目をそらすために、「偽のニュース」を流している状況を批判し、

マスコミは、国民という猟犬の気をそらすために、レッド・ヘリング(燻製ニシン)を投げ込んでいる!

と例えたのです。

この秀逸な比喩表現が大流行し、やがて「注意をそらすための偽情報」全般をレッド・ヘリングと呼ぶようになりました。

ミステリー作品における「最高のスパイス」

ウィリアム・コベットが政治批判として使ったこの言葉は、その後、ミステリー(推理小説)の世界で欠かせない専門用語として定着しました。

推理小説において、物語を面白くするためには「レッド・ヘリング」の存在が不可欠です。もし、一番怪しくない人物が常に犯人だとしたら、それはそれで単調でつまらないですよね。読者に「あいつが怪しい」「いや、こっちの証拠が……」と頭を悩ませ、迷路の中で迷子になってもらうためには、絶妙なタイミングで魅惑的な「臭い魚」を目の前にぶら下げる必要があるのです。

  • アガサ・クリスティの名作『そして誰もいなくなった』
    この作品は、島に集められた人々が次々と殺されていく孤島ミステリーの金字塔ですが、物語の随所に計算し尽くされたレッド・ヘリングが散りばめられており、読者は最後まで真犯人にたどり着けないようになっています。
  • 映画『ハリー・ポッターと賢者の石』
    スネイプ先生は序盤からいかにも悪役らしい怪しい行動を繰り返しますが、実はこれも見事なレッド・ヘリング。本当の黒幕から観客の目をそらすための役割を担っていました。

優れたミステリー作家は、いわば「極上のレッド・ヘリングを調理する天才シェフ」と言えるでしょう。

日常生活に潜むレッド・ヘリング:「論点のすり替え」

さて、フィクションの中のレッド・ヘリングは私たちを楽しませてくれますが、現実世界の議論やビジネスの場に登場するレッド・ヘリングは、非常に厄介な存在(詭弁)です。

論理学において「燻製ニシンの虚偽」は、相手からの痛い指摘や答えにくい質問から逃げるために、意図的に無関係な話題を持ち出して論点をすり替える行為を指します。

例えば、ある政治家の不祥事について記者が追及したとします。

記者

あなたが不正な献金を受け取ったというのは事実ですか?

政治家

そんなことよりも、現在我が国の経済は危機的な状況にあります。少子化対策も遅れており、私はこの国の子どもたちの未来を守るために、日々命がけで働いているのです!

この政治家は、不正献金の話(ウサギ)から目をそらさせるために、「子どもたちの未来」という立派で反論しにくい話題(燻製ニシン)を突然投げ込んでいます。これを聞いた人々が「確かに子どもたちの未来は大事だよね」と同調してしまえば、まんまとレッド・ヘリングの罠にハマり、不正の追及はうやむやになってしまうのです。

まとめ:臭い魚に騙されないために

私たちは日常的に、SNSの議論やテレビの討論番組などで、無数のレッド・ヘリングが投げ交わされるのを目にしています。「Aの製品は安全か?」という議論が、いつの間にか「A社は歴史ある企業だから信用できる」という無関係な感情論にすり替わっていることは珍しくありません。

ミステリー小説の中で探偵が偽のヒントを見破るように、私たちも現実世界の情報に触れる際には「今、本当に議論すべき中心のテーマは何だったか?」を常に見失わないようにする冷静さが求められます。

誰かが急に、感情を揺さぶるような別の話題を持ち出してきたら、一度立ち止まって深呼吸してみてください。あなたの目の前でプンプンと匂いを放っているその話題は、あなたを真実から遠ざけるための「赤い燻製ニシン」かもしれませんよ。

【参考リンク】
燻製ニシンの虚偽 – Wikipedia
※本記事では英語版も参考にしました

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言語・文化哲学・心理
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