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【命がけの数値化】「マイクロモート」:あなたの日常に潜む「死の確率」を測定する奇妙な単位

科学
この記事のざっくりまとめ
  • 「マイクロモート(Micromort)」とは、人間がある行動をとったときに「100万分の1の確率で死亡するリスク」を表す、統計学および意思決定論における単位です。
  • 1980年代に、スタンフォード大学の教授であるロナルド・A・ハワードによって提唱されました。
  • 人間は「飛行機に乗る恐怖」と「車を運転する恐怖」など、リスクを感情的に歪めて評価しがちですが、この単位を使うことであらゆる危険を客観的に比較できるようになります。
  • 例えば、「タバコを1.4本吸う」「ワインを0.5リットル飲む」「車で約370km移動する」「飛行機で約1600km移動する」ことは、どれも同じ「1マイクロモート(=100万分の1の死の確率)」として計算されます。
  • 単なる雑学にとどまらず、医療における手術のリスク評価や、環境政策、さらには「人間の命を金額に換算していくらになるか」という経済学的な議論にも応用されている非常に実践的な概念です。

「空を飛ぶ飛行機が落ちたらどうしよう」と不安になるのに、毎日乗っている自動車の事故についてはあまり心配しない。
「添加物が入った食べ物」は気にするのに、休日のスキューバダイビングには喜んで出かけていく。

私たち人間の脳は、身の回りの「危険(リスク)」を正しく計算するのが非常に苦手です。派手でニュースになりやすい事故は過剰に恐れ、日常に潜む危険は「自分には関係ない」と無意識に過小評価してしまいます。

では、もしこの世のありとあらゆる行動が持つ「死の危険性」を、重さや長さのように同じ一つの単位で測ることができたとしたらどうでしょうか。

それを実現したのが、今回ご紹介する「マイクロモート(Micromort)」という概念です。 今日あなたが吸ったタバコ、乗った電車、あるいは週末のアウトドア趣味が、あなたの命をどれくらい削っているのか。ちょっと怖いけれど知的好奇心をくすぐられる、究極のリスク単位の世界をご案内します。

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マイクロモートとは何か?(100万分の1のロシアンルーレット)

「マイクロモート(Micromort)」という言葉は、「100万分の1」を意味する接頭辞の「マイクロ(Micro)」と、死を意味するラテン語由来の「モート(Mort)」を組み合わせた造語です。

1980年代、意思決定分析の権威であるスタンフォード大学のロナルド・A・ハワード教授が、「人々が日常生活のリスクを合理的に判断できるようにするため」に考案しました。

1マイクロモート=「100万分の1の確率で死ぬリスク」です。

100万分の1と言われてもピンとこないかもしれませんが、イメージとしては「100万個の弾倉があるリボルバー銃に、1発だけ実弾を入れて引き金を引く(ロシアンルーレット)」のと同じ確率です。 私たちは日々生きて行動しているだけで、無意識のうちにこの巨大なルーレットの引き金を引き続けているのです。

私たちの日常はどれくらい危険?(活動別マイクロモート一覧)

では、具体的に私たちが日常で行っている活動や趣味は、それぞれどれくらいのマイクロモートを持っているのでしょうか。英語版Wikipediaなどにまとめられている統計データ(主にアメリカやイギリスの基準)を見てみましょう。

「1マイクロモート」を消費する行動の例

以下の行動はすべて、等しく「100万分の1の死の確率」を持っています。

  • 移動によるリスク
    • 飛行機で 1,000マイル(約1,600km)移動する
    • 自動車で 230マイル(約370km)移動する
    • 自転車で 20マイル(約32km)移動する
    • バイクで 6マイル(約10km)移動する
    • 徒歩で 17マイル(約27km)歩く
  • 生活習慣によるリスク
    • タバコを 1.4本吸う(肺がんや心疾患のリスク)
    • ワインを 0.5リットル飲む(肝硬変などのリスク)
    • 炭に焼いたステーキを 100枚食べる(発がん性物質によるリスク)

これを見ると、移動手段の中でいかに「バイク」の危険性が突出しているか(わずか10kmで1マイクロモート)、逆に「飛行機」がいかに安全な乗り物であるかが一目で分かります。

アクティビティ・スポーツのリスク

休日の趣味に目を向けると、数字はさらに跳ね上がります。1回の活動あたりで消費するマイクロモートの目安です。

  • スキューバダイビング:5 マイクロモート
  • フルマラソンの完走:7 マイクロモート(心臓発作などのリスク)
  • スカイダイビング:8 マイクロモート
  • ベースジャンプ(ビルや崖からのパラシュート降下):430 マイクロモート
  • エベレスト登頂:約37,932 マイクロモート

エベレスト登頂の数字は異常です。これは「エベレストに登ることは、約3万8000回のロシアンルーレットを連続で引き続けるのと同じくらい死の危険が伴う」ということを意味しています。

なぜ「死の確率」を数値化する必要があるのか?

そもそも、なぜハワード教授はこのような不気味な単位を作ったのでしょうか。最大の理由は「人間の認知バイアス(思い込み)」を補正するためです。

例えば、テロ事件や飛行機事故のニュースを連日見ていると、多くの人は「飛行機は危険だから車で旅行しよう」と考えます。しかし、マイクロモートで計算すれば、飛行機よりも長距離を車で移動する方が、統計的には何倍も死の危険が高いことがわかります(9.11のテロ事件の後、飛行機を避けて車移動を選んだアメリカ人が増えた結果、逆に交通事故による死者が大幅に増加したという皮肉なデータもあります)。

マイクロモートを使うことで、私たちは感情的な恐怖から離れ、「どちらの選択肢が真に安全か」を冷静に比較(リンゴとリンゴを比較するように)できるようになるのです。

命はお金で買えるか?(マイクロモートの値段)

この概念のもう一つの面白い応用分野が、「統計的生命の価値」の算定です。

「人の命に値段はつけられない」と私たちは言いますが、政府が信号機を設置したり、医療費を配分したりする際には、「いくら予算をかければ、国民の命をどれだけ救えるか」という冷徹な計算が必要になります。

そこで、「人々は1マイクロモート(100万分の1の死のリスク)を避けるために、いくらまでならお金を払うか?」というアンケートや経済調査が行われました。 国や時代によって異なりますが、現代の先進国において、1マイクロモートの価値はおおよそ「50ドル(約7,500円)」程度と見積もられることが多いようです。

つまり、社会全体として見れば「100万マイクロモート(=確実な1人の死)」を防ぐために、約5000万ドル(約75億円)の予算をかけるのが経済的に妥当なラインである、といった政策決定の裏付けとして機能しているのです。

まとめ

「マイクロモート」という概念は、決して私たちを脅かして家に閉じ込めようとするためのものではありません。

私たちが朝起きてベッドから出た瞬間から、何らかのリスクは発生します。年齢を重ねるだけでも、自然発生的なマイクロモート(ベースライン・リスク)は日々蓄積されていきます。リスクをゼロにして生きることは、物理的に不可能なのです。

重要なのは、「自分が今からやろうとしていることの“本当の危険度”を知り、それでもそのリスクを負うだけの価値(喜びや見返り)があるかを天秤にかけること」です。

スキューバダイビング(5マイクロモート)や、バイクでのツーリングの危険性を正しく理解した上で、「それでもこの素晴らしい体験を得たい!」と決断する。それこそが、情報に振り回されない、人間の主体的な生き方と言えるのではないでしょうか。

今度、飛行機に乗るのを怖がっている友人がいたら、ぜひ教えてあげてください。

「大丈夫、あなたが空港まで乗ってきた車の方が、ずっとたくさんのマイクロモートを消費しているから」と。

※本記事では英語版も参考にしました

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