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【名前のインパクト絶大】「クソニンジン」:人類を救い、ノーベル賞をもたらした“奇跡の雑草”

動物・生物
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この記事のざっくりまとめ
  • 「クソニンジン」は、キク科ヨモギ属の植物です。葉の形がニンジンに似ており、特有の強い悪臭を放つことから、この散々な和名がつけられました(別名「バカニンジン」とも呼ばれます)。
  • 日本ではその辺の荒れ地や河原に生える単なる雑草扱いですが、中国では「黄花蒿(おうかこう)」と呼ばれ、古くから伝統医学で解熱などに用いられてきた由緒ある生薬です。
  • 実はこの植物、恐ろしい感染症であるマラリアの特効薬成分「アルテミシニン」を豊富に含む、とんでもないスーパー植物なのです。
  • 中国の科学者、屠呦呦(トゥ・ヨウヨウ)博士が、東晋時代の古い医学書をヒントに成分の「低温抽出」に成功。これにより世界中で数百万人の命が救われました
  • この歴史的な大発見により、屠博士は2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞。クソニンジンは、酷すぎる名前に反して人類史に名を残す偉大な植物となりました。

道端に生えている雑草を見て、「なんだか嫌な臭いがするな」と顔をしかめた経験はありませんか? 植物の世界には、見た目や匂いの特徴から、人間によってあんまりな名前を付けられてしまった不憫な植物がたくさん存在します。その中でも、ぶっちぎりで酷いネーミングセンスを誇るのが、今回ご紹介する「クソニンジン」です。

「クソ」に「ニンジン」。言葉の響きだけで言えば、食卓には絶対に並んでほしくない最悪の組み合わせですよね。

しかし、名前だけでこの植物を笑ってはいけません。実はこのクソニンジン、世界中で猛威を振るう恐ろしい病から数百万人の命を救い、科学者にノーベル賞までをもたらした「人類の救世主」なのです。

今回は、散々な名前の裏に隠された、あまりにもドラマチックな「奇跡の雑草」の物語を紐解いていきましょう。

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名前に悪意しかない?「クソニンジン」の正体

(出典:wikimedia commons

クソニンジンは、アジアから東ヨーロッパを原産とするキク科ヨモギ属の一年草(または越年草)です。日本にも古い時代に薬用として持ち込まれ、現在では帰化植物として全国の空き地や河原などに自生しています。

では、なぜこんな悲惨な名前になってしまったのでしょうか。 理由は非常にシンプルです。葉っぱが細かく裂けていて「ニンジンの葉にそっくり」なこと。そして、植物全体から「強烈な悪臭を放つ」こと。この二つの特徴が合わさり、身も蓋もない「クソニンジン」という和名が誕生してしまいました。ちなみに、別名でも「バカニンジン」や「ホソバニンジン」と呼ばれており、どう転んでも良い扱いを受けていません。

しかし、世界に目を向けると少し事情が異なります。英語圏では「Sweet wormwood(甘いヨモギ)」「Sweet annie(愛らしいアニー)」など、意外にも可愛らしい名前で呼ばれているのです。日本人のネーミングセンスの容赦なさが際立ちますね。

マラリアの恐怖と、中国軍の極秘プロジェクト

日本ではただの臭い雑草として扱われていたクソニンジンですが、原産地である中国では「黄花蒿(おうかこう)」や「青蒿(せいこう)」と呼ばれ、解熱やマラリアなどの治療に用いる生薬として、古くから伝統医学の中で重宝されていました。

この植物が世界的な脚光を浴びるきっかけとなったのは、1960年代後半から70年代にかけてのことです。 当時、泥沼化していたベトナム戦争において、熱帯のジャングルで戦う兵士たちを苦しめていたのは、敵の銃弾だけでなく、蚊が媒介する恐ろしい感染症「マラリア」でした。既存の薬に耐性を持つマラリア原虫が出現し、バタバタと兵士が倒れていく中、北ベトナムを支援していた中国は、国家の威信をかけて「新しいマラリア治療薬」の開発を命じます。これが中国人民解放軍による極秘の軍事プロジェクトでした。

このプロジェクトに抜擢されたのが、のちにノーベル賞を受賞することになる女性科学者、屠呦呦(トゥ・ヨウヨウ)博士とそのチームでした。

ノーベル賞への鍵は「1600年前の医学書」にあった

屠博士のチームは、マラリアに効く成分を探し出すため、中国に伝わる何万種類もの伝統的な生薬を片っ端からテストしました。その中で、クソニンジン(黄花蒿)の抽出液がマラリア原虫を抑え込む効果を持つことを発見します。

しかし、大きな壁にぶつかります。実験によって効果が出たり出なかったりと、結果が全く安定しなかったのです。

悩みに悩んだ屠博士は、東晋時代(紀元4世紀)の錬丹術師・葛洪(かっこう)が記した医学書『肘後備急方(ちゅうごびきゅうほう)』という古い文献を読み直しました。すると、そこにはクソニンジンの使い方について、こんな一文が書かれていたのです。

青蒿一握、以水二升漬、絞取汁、尽服之
(一握りの青蒿を水に浸し、絞り汁をすべて飲み干しなさい)

これを見た瞬間、屠博士に電流が走りました。

伝統的な漢方薬のように『熱湯でグツグツ煮出す』のは間違いだったんだ! 昔の人は、絞り汁をそのまま飲んでいた。つまり、有効成分は熱に弱く、加熱すると壊れてしまうんだ!

この推測は見事に的中しました。屠博士は、熱を使わずに「エーテル」を用いて低温で成分を抽出する方法を編み出します。そして1972年、ついにクソニンジンの中から、マラリアに対して100%の驚異的な抑制効果を持つ有効成分「アルテミシニン」を単離することに成功したのです。

まとめ

屠博士がクソニンジンから発見したアルテミシニンは、その後、画期的な抗マラリア薬として世界中で実用化されました。特にアフリカやアジアの熱帯地域において、現在に至るまで数え切れないほど多くの子供たちや患者の命を救い続けています。

そして2015年。この偉大な功績により、屠呦呦博士はノーベル生理学・医学賞を受賞しました。中国の科学者が、中国国内での研究によってノーベル科学賞を受賞するのは、これが初めての快挙でした。

現在、日本各地の大学の薬用植物園に行くと、ノーベル賞に貢献した栄誉ある植物として、このクソニンジンが大切に栽培・展示されています。しかし、立て札には相変わらずデカデカと「クソニンジン」と書かれているため、事情を知らない来園者はその名前にクスッと笑ってしまうそうです。

「名は体を表す」とは言いますが、植物の世界においては必ずしもそうとは限りません。 道端で誰にも見向きもされず、ただ「臭い雑草」として散々な名前を付けられていた植物が、実は世界を救う力を秘めていた。クソニンジンの物語は、物事の価値を外見や名前だけで判断してはいけないということを、私たちに力強く教えてくれます。

もし夏から秋にかけて、河原でニンジンのような葉を持つ強烈な匂いの草を見かけたら、少しだけ敬意を持って接してあげてくださいね。

※本記事では英語版・中国語版も参考にしました

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