- アフリカ東部に位置するエチオピアでは、世界標準の「グレゴリオ暦」ではなく、独自の「エチオピア暦」が国の公式カレンダーとして使われています。
- エチオピア暦は西暦と比べて約7〜8年遅れているため、私たちが2026年を生きているとき、エチオピアはまだ2018〜2019年あたりを過ごしていることになります。
- 驚くべきことに、エチオピア暦の1年は「13ヶ月」あります。1月〜12月まではすべてきっちり「30日」で、余った5日間(閏年は6日間)を集めて「13月」としています。
- 年越し(お正月)は、私たちの暦でいう「9月11日(または12日)」にやってきます。
- カレンダーだけでなく時計の読み方(エチオピア時間)も特殊で、夜明けの午前6時を「1日の始まりの0時」とカウントするため、私たちの時計と常に「6時間のズレ」が生じます。
「タイムトラベルをして、数年前に戻ってみたい」
「1年がもう1ヶ月くらい長ければ、もっといろんなことができるのに」
誰もが一度はそんなふうに考えたことがあるはずです。しかし、実は飛行機に乗ってアフリカのある国へ行くだけで、そのファンタジーのような設定が「現実」になってしまう場所があります。
それが、コーヒーの発祥地としても知られる魅惑の国、エチオピアです。
世界中のほとんどの国が西暦(グレゴリオ暦)で足並みを揃えている現代において、エチオピアは頑なに独自のシステムを貫いています。そこは今も「7年前」の世界であり、1年は「13ヶ月」あり、お正月は「9月」にやってきます。
今回は、私たちの常識と時間感覚をバグらせてしまう、世界で最もマイペースでミステリアスな「エチオピア暦」の秘密を解き明かしていきましょう。
なぜ「7年」も遅れているのか?
私たちが現在使っている「西暦(グレゴリオ暦)」も、エチオピアが使っている「エチオピア暦」も、どちらもベースとなっているのはキリスト教の教えです。では、なぜここまで大きなズレが生じてしまったのでしょうか。
その理由は、「イエス・キリストが誕生した年」の解釈の違いにあります。
私たちが使っているカレンダーは、6世紀の修道士ディオニシウス・エクシグウスという人物の計算に基づいてキリストの誕生年を「紀元元年」と定めています。一方、エチオピア正教会という独自の信仰を育んできたエチオピアでは、アニアヌスという5世紀の修道士の計算を採用しました。
この二人の計算結果に「約7〜8年」のズレがあったため、エチオピアのカレンダーは、西暦のカレンダーよりも常に7〜8年遅れた状態のまま、今日まで時を刻み続けているのです。つまり、世界中がミレニアム(2000年)で大騒ぎしていたとき、エチオピアはまだ1992年。彼らが2000年のお祝いをしたのは、私たちが2007年の秋を迎えたときでした。まさに、国全体がタイムマシンに乗っているような状態ですね。
13ヶ月目のカレンダー:「13月」ってどんな月?
エチオピア暦のもう一つの大きな特徴、それが「1年は13ヶ月である」ということです。
私たちのカレンダーは、28日の月があったり31日の月があったりとバラバラですが、エチオピア暦は非常にシステマチックです。1月から12月まで、全ての月が「きっちり30日」で終わります。
30日 × 12ヶ月 = 360日。
しかし、地球が太陽の周りを回るには約365日かかります。そこでエチオピア暦では、あぶれてしまった「5日間(閏年の場合は6日間)」だけをひっくるめて、「13月(パグメ)」という超ミニサイズの特別な月を作ってしまったのです。
エチオピアの観光局は、かつてこのユニークなシステムを逆手にとって「13 months of sunshine(13ヶ月の太陽)」という非常にロマンチックなキャッチコピーで自国をアピールしていました。たった5日しかない13月ですが、なんだかボーナスステージのようでワクワクしませんか?
お正月は9月にやってくる
カレンダーが全く違うため、年越しのタイミングも当然違います。エチオピアの新年(お正月)は、私たちの暦でいう「9月11日(閏年の翌年は12日)」にやってきます。
エチオピアではこのお正月を「エンキュタタシュ」と呼びます。雨季が終わり、大地に黄色いデイジーの花が一斉に咲き誇る、1年で最も美しく心地よい季節です。
伝説によれば、古代エチオピアのシバの女王が、エルサレムのソロモン王を訪問して帰国した際、人々が宝石(エンキュ)を捧げて彼女の帰還を祝った(タタシュ)ことが語源とされています。
この日、子どもたちは新しい服を着て、手描きの花の絵や花束を近所の人に配り歩きます。すると、お返しにちょっとしたお小遣いやお菓子がもらえるという、まるで日本のお年玉とハロウィンを混ぜたような、可愛らしい文化が根付いています。また、各家庭では「ドロワット」という鶏肉のピリ辛シチューをインジェラ(発酵させた薄焼きパン)に乗せて食べるのが定番の過ごし方です。
時計もバグる?「エチオピア・タイム」の罠
エチオピアを訪れた旅行者が必ず一度はパニックに陥るのが、「時間」の読み方です。実はカレンダーだけでなく、時計の概念まで独自のルールで動いているのです。
私たちは「夜中の12時(午前0時)」を1日のスタートとしますよね。しかし、エチオピアでは「日の出の時刻(午前6時)」を、1日のスタートである「0時」と考えます。
つまり、私たちが朝の午前7時だと思っている時間は、彼らにとっては「1時」。お昼の12時は「6時」になります。常に私たちの時計からマイナス6時間(あるいはプラス6時間)した数字が、彼らの時計の数字なのです。
もしエチオピア人の友人と「明日の3時に待ち合わせね!」と約束した場合、それは彼らの感覚では「朝の9時」を意味している可能性があります。悪気は全くないのに、待ち合わせに6時間もすっぽかされてしまう……という悲劇(喜劇?)が、エチオピアでは日常茶飯事に起きています。
まとめ
西暦のカレンダーと、1日24時間のグローバルスタンダード。私たちはそれが「世界の絶対的なルール」だと信じ込んで生きています。
しかし、エチオピアの人々は、そんな私たちの当たり前を軽やかに笑い飛ばしてくれます。彼らは、大地に花が咲く季節を新しい年の始まりとし、太陽が昇る瞬間を1日の始まりとして生きています。それは、人工的に作られた数字よりも、もっと自然のリズムに寄り添った、人間らしい時間の捉え方なのかもしれません。
もし日々の生活に追われて「時間が足りない!」と息苦しくなったときは、遠くエチオピアの地に思いを馳せてみてください。そこにはまだ、私たちが通り過ぎてしまった「7年前の風景」と、見知らぬ「13ヶ月目の日々」が、ゆったりと流れているのですから。
※本記事では英語版も参考にしました



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