- 「Buffalo buffalo Buffalo buffalo buffalo buffalo Buffalo buffalo.」は、「バッファロー」という単語を8回繰り返しただけに見えますが、文法的に完全に正しい英文です。
- この魔法のような文章が成立する秘密は、「Buffalo(バッファロー)」という単語が持つ「①ニューヨーク州の都市名」「②動物のバイソン」「③威嚇する・いじめるという動詞」の3つの意味を巧妙に組み合わせている点にあります。
- 日本語に直訳すると、「バッファロー市のバイソン(別のバッファロー市のバイソンが威嚇するバイソン)は、バッファロー市のバイソンを威嚇する」という意味になります。
- 1972年にウィリアム・J・ラパポートという人物によって考案され、その後、著名な言語学者スティーブン・ピンカーの著書で紹介されたことで世界的に有名になりました。
- 関係代名詞の省略や同音異義語が引き起こす「脳の混乱」を説明するための、言語学における秀逸な例文として語り継がれています。
パソコンのキーボードが壊れて連打されてしまったのか、はたまたコピペのミスか。
「Buffalo buffalo Buffalo buffalo buffalo buffalo Buffalo buffalo.」
この文字列を初めて見たとき、誰もが「ただ単語が連続しているだけで、意味なんてあるはずがない」と思うでしょう。しかし驚くべきことに、ネイティブスピーカーの言語学者たちが認める「文法的に一切の狂いがない、完璧な英文」なのです。
たった一つの単語で構成されているこの文章は、英語という言語が持つ「多義性」と「文法構造の柔軟さ」が生み出した、究極の言葉遊びです。今回は、私たちの脳をゲシュタルト崩壊へと導くこの呪文のような英文の構造を、徹底的に解剖していきます。
なぜ同じ単語だけで文が成立するのか?(3つの意味)
この文章を読み解くための絶対的なルール、それは「Buffalo」という英単語が持つ3つの全く異なる意味を理解することです。
- 固有名詞(地名)としての「Buffalo」
アメリカ・ニューヨーク州にある都市「バッファロー市」のことです。名詞の前に置いて「バッファロー市産の〜」という形容詞的な使い方もできます。地名なので、必ず頭文字は大文字(B)になります。 - 名詞(動物)としての「buffalo」
動物のバッファロー(アメリカバイソン)のことです。ここで重要なのは、buffaloの複数形は「buffaloes」だけでなく、単数形と同じ「buffalo」でも正解であるという点です。今回の文では、すべて複数形の「バッファローたち」として使われています。 - 動詞としての「buffalo」
実はこの単語には、「威嚇する」「いじめる」「困惑させる」という意味の動詞(他動詞)としての用法があります。
つまり、この8つの「バッファロー」の中には、「バッファロー(地名)」と「バッファロー(動物)」と「バッファロー(動詞)」が入り乱れているのです。
文の構造を徹底解剖!どう訳せばいい?
では、実際にこの8つの単語をグループ分けして、パズルのピースをはめ込んでみましょう。分かりやすくするために、8つの単語に番号(①〜⑧)を振って解説します。
【Buffalo①】 【buffalo②】 【Buffalo③】 【buffalo④】 【buffalo⑤】 【buffalo⑥】 【Buffalo⑦】 【buffalo⑧】.
第1グループ:主語(誰が?)
- 【Buffalo①】 【buffalo②】
- 意味:「バッファロー市(①)の、バイソンたち(②)」
第2グループ:主語を修飾する関係代名詞節(どんなバイソン?)
英語では、「The boy you like(あなたが好きな男の子)」のように、名詞の直後に主語+動詞を置くことで、関係代名詞(thatやwhich)を省略して名詞を修飾することができます。
- (which) 【Buffalo③】 【buffalo④】 【buffalo⑤】
- 意味:「バッファロー市(③)の、バイソンたち(④)が、いじめている(⑤)」
これが第1グループにかかるので、ここまでで「バッファロー市のバイソンがいじめている、バッファロー市のバイソン」となります。これがこの文の巨大な「主語」です。
第3グループ:メインの動詞と目的語(どうする?)
- 【buffalo⑥】 【Buffalo⑦】 【buffalo⑧】
- 意味:「いじめている(⑥)、バッファロー市(⑦)の、バイソンたちを(⑧)」
全文を繋げてみましょう
「Buffalo buffalo Buffalo buffalo buffalo buffalo Buffalo buffalo.」
巨大な主語と、メインの動詞、目的語をくっつけると、見事な和訳が完成します。
「別のバッファロー市産バイソンからいじめられているバッファロー市産のバイソンは、バッファロー市産のバイソンをいじめる。」
「いじめられっ子が、別の誰かをいじめている」という、バイソンたちの悲しき食物連鎖(?)を描いた、立派な文章になっているのです。
もっと分かりやすい例え話
「理屈はわかったけれど、やっぱり頭に入ってこない!」という方のために、単語を別のものに置き換えてみましょう。構造は全く同じままです。
- 地名の「Buffalo」 → 「Tokyo(東京の)」
- 動物の「buffalo」 → 「cats(猫たち)」
- 動詞の「buffalo」 → 「scratch(ひっかく)」
これらを元の文に当てはめてみます。
Tokyo cats Tokyo cats scratch scratch Tokyo cats.
(東京の猫がひっかく東京の猫は、東京の猫をひっかく。)
どうでしょうか。使う単語のスペルがバラバラであれば、文法の構造自体はそれほど複雑ではないことが分かります。すべてが「b-u-f-f-a-l-o」という全く同じスペルと発音を持っているからこそ、私たちの脳は激しいパニックを起こしてしまうのです。
まとめ
この奇妙な文章が世界的に有名になったのは、ハーバード大学の認知心理学者・言語学者であるスティーブン・ピンカーが、1994年の世界的ベストセラー『言語を生みだす本能(The Language Instinct)』の中で紹介したことがきっかけでした。
ピンカーは、人間の脳がいかにして言葉を処理しているかを説明するために、この文を用いました。私たちの脳は、文章を読むときに無意識のうちに「これは名詞だ」「これは動詞だ」と予測を立てながら構文を解析(パース)しています。しかし、同音異義語が連続し、関係代名詞が省略されているこの文に直面すると、脳の予測プログラムが完全にクラッシュしてしまいます。
「Buffalo buffalo Buffalo buffalo buffalo buffalo Buffalo buffalo.」
この一見するとふざけたような文字列は、実は人間が作り出した「言語」というシステムがいかに精密で、柔軟で、そして時として信じられないほど不可思議な構造を作り出せるかを示す、最高のエンターテインメントなのです。
もし英語の文法で悩んでいる人がいたら、ぜひこの呪文を教えてあげてください。「英語って、こんなに狂っていて面白いんだ」と、きっと新鮮な驚きを与えられるはずです。
※本記事では英語版も参考にしました




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